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シャミる!11話クラシカる!

11話登場人物紹介


つむぎ主人公三味線クラブ創設者。今回はクラシックセッションにチャレンジ!?

はやり つむぎの大親友。ムードメーカー
母はプロダンサー。今回は三味線で参加。

りゅうこう 冷静
無口男子、祖母は三味線弾き。アコ・・

かける 江戸っ子
三味線クラブのリード役。今回はクラシックピアノで参加。

アコ
8話で登場したフォロワー100万人越え再生回数1億越えの人気シンガー。澄美田小OBでバイオリンが音楽の原点。といことで

ひびき
6話7話で登場した民謡会和太鼓担当。打楽器全般得意で今回は鉄琴グロッケンで参加。広島弁。

ともえ
2話6話7話で登場したレギュラーキャラ。民謡会の篠笛担当。東北弁。fluteの代用で参加。

たいきち
7話で登場した尺八。民謡会所属。今回はティンパニで参戦。博多弁

第10話漫画版は下スクロールして読む事が出来ます。

第1章|P0–P9 音楽で時間旅行――クラシックと三味線の歴史
P0|前回までのあらすじ

クラシックとの融合に挑んだ三味線クラブ。

バロックの世界を思わせる風景の中で、三味線、ピアノ、バイオリン、篠笛、ティンパニ、鉄琴――それぞれ違う音を持つ楽器が、少しずつ互いの居場所を見つけていった。

さらに、そこへ「うた」が加わる。

最初は別々だった八人の音は、演奏するたびにひとつの大きな響きへ変わっていった。

そして夏休み。

三味線クラブの、本格的なクラシック合宿が始まる――。

P1|夏休み初日、音楽室へ

夏休み初日の朝。

校舎はいつもの登校日より静かだった。それなのに音楽室には、楽器を抱えた八人の姿がそろっている。

窓から差し込む夏の光の中、はやりは早くも少し不満そうだった。

はやり「夏休みなのに、朝から学校ジャン……」

そんな空気を吹き飛ばすように、アコが楽しそうに声を上げる。

アコ「今日は音楽で時間旅行だよ」

丹仁野先生は、これから始まる演奏の前に黒板へ視線を向けた。

丹仁野先生「演奏の前に、クラシックがどこから来たのかを知りましょう」

かけるは隣でぼやくはやりへ、すぐさま江戸っ子らしいツッコミを入れた。

かける「てやんでい! 合宿を遠足だと思ってたのかよ」

こうして最初の授業は、楽器を鳴らす前の「音の時間旅行」から始まった。

P2|音は時代を越える

西洋音楽の歴史をさかのぼると、その入り口はずっと昔へ続いていた。

古代ギリシャやローマでは、劇や詩とともに音について考え、研究する文化が育っていた。

丹仁野先生「西洋音楽の考え方は、古代の劇や詩、音の研究にもつながっているの」

やがて音を記録する方法が発達する。

その場で消えてしまうはずだった音楽が、楽譜によって次の時代へ渡せるようになった。

つむぎ「楽譜のおかげで、時代を超えて受け継げるようになったんだね」
丹仁野先生「楽譜の発明は画期的ね」

はやりの目が輝いた。

はやり「音のTimeトラべる! ジャン!」

何百年前の人が残した音を、今の自分たちが演奏できる。

そう考えると、古い楽譜はまるで音楽のタイムマシンだった。

P3|教会から街へ

中世の礼拝堂には、人の声が静かに響いた。

最初は一本の旋律だった聖歌。それが二つ、三つと重なり、多声音楽へ広がっていく。

たいきち「あくびがでるたい。」

たいきちの気の抜けた声が飛ぶ。

丹仁野先生「こりゃ! シャキッとせんか!!」

ひびきたちは思わず笑った。

しかし音楽の居場所は、いつまでも教会だけではなかった。

宮廷、街、舞踏の場へ。使われる場所が変わるたび、音楽の役目も変わっていく。

ともえ「じぇじぇ! 同じ音でも、場所が変われば役目も変わるだ」

音楽は、人が暮らす場所と一緒に姿を変えてきたのだ。

P4|クラシックも変わり続けた

時代は進み、十七世紀ごろ。

現在「クラシック」と呼ばれる音楽の大きな流れが、少しずつ見えやすくなってくる。

丹仁野先生「17世紀ごろから、今クラシックと呼ばれる大きな流れが見えやすくなるわ」

バッハの時代には対位法が磨かれ、古典派では形式と均衡が大切にされた。

さらにロマン派になると、編成は大きくなり、個人の感情や物語までもが音楽の中へ広がっていった。

アコ「Rulesができて、そこから感情も物語も広がった」
りゅうこう「型があるから、崩したときの面白さも出るってことか」

決まりは、音楽を縛るものだけではない。

型を知っているからこそ、その外へ飛び出す面白さも生まれる。

三味線とクラシックを融合しようとしている八人にとって、それはとても大事な言葉だった。

P5|クラシックも衣替えするジャン!

教会から劇場へ。

何百年という時間の中で、音楽の居場所も、演奏する人の姿も変わってきた。

丹仁野先生「クラシックは一つの決まった音ではなく、何百年も変化してきた音楽なの」

ひびきは、時代ごとに違う華やかな衣装を眺めて感心した。

ひびき「時代と共に衣装も違うんじゃのう!」

それを聞いたはやりが、すぐさま手を上げる。

はやり「クラシックも衣替えするジャン!」

歴史の授業だったはずなのに、はやりの頭の中ではもう次の衣装の想像が始まっている。

音楽室に小さな笑い声が広がった。

P6|海を渡った三味線の祖先

今度は、日本側の音の旅が始まる。

三味線にも、長い旅の歴史があった。

丹仁野先生「中国の三弦を源流に、琉球へ渡った楽器が三線として育ったの」

海を越え、土地が変わり、演奏する人が変わる。

そのたびに楽器も少しずつ姿を変えていった。

つむぎ「海を渡って、今の形になったんだ」

十六世紀ごろ、三線は日本本土へ伝わる。

棹、胴、撥。それぞれが本土の芸能や音楽に合わせて変化し、やがて現在の三味線へつながっていった。

三味線もまた、旅をしてきた楽器だった。

P7|歌・芝居・踊りと三味線

日本へ渡った三味線は、ひとつの場所だけにとどまらなかった。

歌舞伎では舞台の勢いを支え、人形浄瑠璃では語りと人形の情景を深める。

座敷、地歌、民謡――使われる場所が広がるにつれ、音色も奏法も枝分かれしていった。

丹仁野先生「歌、芝居、踊り。使われる場所に合わせて、音色も奏法も枝分かれしたの」

太棹、中棹、細棹。

同じ三味線でも、求められる音に合わせて形まで変わっていく。

はやり「シャミる! クラシカる! ジャン!」

違う歴史を持つクラシックと三味線。

けれど、どちらも人と出会うたびに変化してきたという点では同じだった。

P8|津軽の風雪が育てた音

三味線の旅は、さらに北へ向かう。

津軽では、厳しい風雪と人々の暮らしの中で、力強い音が育っていった。

ひびき「土地の風土が音に残っちょるんじゃのう」

太い棹。強い撥さばき。

遠くまで音を届ける必要があった土地で、津軽三味線らしい鋭く力強い響きが磨かれていく。

つむぎ「音楽の歴史って、人の暮らしの歴史なんだ」
アコ「教会も劇場も津軽の町も、音を変えてきた場所なんだよ」

音楽は楽譜の中だけで生まれるのではない。

そこに暮らした人、その土地の空気、必要とされた役割が、少しずつ音を作ってきた。

P9|東西の音が一本につながる

西洋のクラシック。

海を渡り、日本各地へ広がった三味線。

まったく別々に見えた二つの歴史が、音楽室の中央で一本につながった。

丹仁野先生「どちらも旅をし、出会った人に合わせて変化してきた。だから融合は歴史を壊すことではないわ」
つむぎ「次の人へ渡す、新しい形を作ることなんだね」
りゅうこう「音を受け継ぎつつ、俺たちの今日の音にしようぜ」

丹仁野先生が譜面を手に取った。

丹仁野先生「今日の課題は四曲」

はやりが待ってましたとばかりに身を乗り出す。

はやり「いよいよクラシカるジャン!」

歴史を知る時間は終わった。

ここからは、自分たち自身が新しい音の続きを作る番だ。

第2章|P10–P20 コロッセオ――黒石よされ節×カルメン前奏曲
P10|コロッセオの役を選ぼう!

最初の課題は、いきなりただの合奏ではなかった。

丹仁野先生「曲はカルメン前奏曲と黒石よされ節の融合よ。背景はコロッセオ! みんな好きな役になりきって!」

音だけでなく、景色や役まで想像して演奏する。

八人の頭の中に、一気に古代の巨大な競技場が広がった。

はやり「アタシは闘牛士やってみたい。」
ひびき「おお、似合いそうじゃのう! うちもノッタ!」
かける「俺は王子役やってみてえ!」
アコ「OK! ならアタイが王女様やるよ」
ともえ「お、オラ……プリンセスに憧れるだ。」

演奏前から、すでに音楽室は舞台の裏側のような騒ぎになっていた。

P11|はやりの配役作戦

女子たちが楽しそうに役を決める横で、たいきちは少し呆れた顔をしていた。

たいきち「まったく女子供はこれじゃからのう。はよせんか。」

隣でりゅうこうも黙ってうなずく。

その瞬間、はやりの顔にいたずらっぽい笑みが浮かんだ。

はやり「たいとりゅうこうの配役なら、お任せジャン!!」
はやり「任せとかんね! ジャン!」

嫌な予感などまるで感じていないたいきちは胸を張った。

たいきち「おいは、かっこよか役ならどげんでんよかぞ!」
ひびき「こりゃ! たいきち! 真面目に考えんかい!」

しかし、もう遅い。

はやりの頭の中では、二人の配役がほとんど決まりかけていた。

P12|黒石よされ×カルメン、開幕

景色が変わる。

そこは熱気に包まれたコロッセオ。

王女、プリンセス、闘牛士たちが並び、華やかな『カルメン』前奏曲の躍動と、黒石よされ節の土の匂いを持つリズムがぶつかり合う。

そして、はやりが選んだ「牛役」も姿を現した。

西洋の舞台音楽と津軽の民謡。

違う土地からやってきた二つの音が、ここでは同じ熱気の中で走り始める。

P13|闘牛士と牛の音の対決

カルメンの鋭いリズムへ、黒石よされ節が食い込んでいく。

闘牛士役のはやりが軽やかに身をかわす一方、牛役にされたたいきちとりゅうこうは、どうにも納得がいかない。

♪ 黒石よされ節!!!
どこでも!! 流行るさあよ!!
たいきち「きさんたちゃおいに、こげん恰好ばさせてからくさ!!」
りゅうこう「はやり、覚えてろ・・・・」

怒っている二人とは対照的に、はやりの動きはますます軽快になる。

まるで本当に、闘牛士と牛の追いかけ合いが始まったようだった。

P14|なお流行る

三味線の撥音が、カルメンの鋭い拍へ重なる。

音の勢いは止まらない。

♪ まして黒石よされ節!!
♪ なお流行る~~~~~

西洋の旋律の上で、津軽の節が堂々と鳴っている。

どちらかが相手に合わせて小さくなるのではない。

二つとも自分らしさを残したまま、同じ舞台の熱を作っていた。

P15|牛さんこちら!

演奏がさらに熱を帯びる中、はやりは牛役の二人を挑発するように手を叩いた。

はやり「牛さんこちら! 手の鳴る方へジャン!」
たいきち「しぇからしか!」

その様子を見て、ひびきは腹を抱えるように笑う。

ひびき「はは! たいきちかっこええのう!」

りゅうこうは何も言わない。

りゅうこう「・・・・・・・・」

けれどその沈黙が、何より雄弁だった。

はやりはますます楽しそうに、コロッセオを駆ける。

P16|味があるよ、はやるさあよ

歌声が一段高く抜け、三味線とクラシックの響きをまとめて押し上げる。

♪ うたってみしゃんせ!!!
味があるよ~~♪

♪ はやるさあよ!!!!

遠い土地で生まれた旋律と、津軽で歌い継がれてきた節。

違うからこそ、それぞれの癖がよく聞こえる。

その癖こそが、この融合曲の味になっていた。

P17|カルメンを終えて

最後の音が止まり、コロッセオの熱気がゆっくり音楽室へ戻ってくる。

息を整えながら、はやりが得意そうに声を上げた。

はやり「これ知ってるジャン! 競馬の曲ジャン!」
かける「てやんでい! カルメンを競馬だけで片付けんな!」
はやり「だって走りたくなるジャン!」
たいきち「おいは牛役で走らされたったい!」

曲の感想より先に配役への文句が出てくる。

けれど、全力で動いた全員の顔には、疲れと同じくらい楽しさが残っていた。

P18|たいきちの理想と現実

たいきちの不満は、まだ収まっていない。

たいきち「なんでおいが牛で、はやりが闘牛士なんか!」

はやりは悪びれる様子もなく、にっこり笑う。

はやり「まあまあ、お似合いで配役されたジャン」
たいきち「どういう意味たい!」

ひびきが笑顔で追い打ちをかける。

ひびき「たいきち、かっこよかったぞ!」
たいきち「おだてったっちゃ無駄ばい!」

そう言いながらも、さっきより少しだけたいきちの声は小さくなっていた。

P19|違う音がぶつからないために

笑いが落ち着くと、八人は改めて今の演奏を振り返った。

アコ「『カルメン』と黒石よされ節は、相性バッチリだね。」
ともえ「んだ。熱気でリズムカルでスタッカートもハマるだな。」
りゅうこう「バランスが命。」
つむぎ「音が躍ってるみたいで楽しかった!!」

丹仁野先生は満足そうにうなずいた。

丹仁野先生「音がぶつからずに饗宴してたわよ。」

融合は、ただ二曲を同時に鳴らすことではない。

互いの音を消さず、居場所を作りながら一緒に進む。

最初の課題で、八人はその感覚をひとつつかんだ。

P20|次は「天国と地獄×あいや節」

休む間もなく、次の譜面が開かれた。

はやり「天国と地獄……運動会の曲ジャン?」
かける「運動会かあ! かけっこなら負けねえぞ!」

丹仁野先生が次の課題を告げる。

丹仁野先生「次の譜面は『天国と地獄×あいや節』。今回は動きもつけて、リズムを感じてもらうわ。」
ともえ「じぇじぇ!? オラ、運動は苦手だ。」

演奏するだけではない。

今度は身体ごとリズムの中へ飛び込む課題だ。

音楽室が、次の瞬間には運動場へ変わろうとしていた。

第3章|P21–P28 運動会――天国と地獄×あいや節
P21|ヨ~イ! ドン!!

音楽室だったはずの景色が、一気に運動会へ変わる。

八人は楽器を構えながら、今にもスタートを切りそうな緊張感に包まれた。

「ヨ~イ!」

次の瞬間――。

ドン!!

『天国と地獄』の速い旋律が一斉に走り出す。

そこへ津軽の声が勢いよく飛び込んだ。

あいや~!
ソレ!

クラシックのスピードと民謡の掛け声。

音だけだった競走が、身体ごと前へ進む運動会になった。

P22|アイヤー、うたが聴こえる

走るような旋律の上へ、あいや節の声が長く伸びる。

アイヤー
うたが聴こえる

西洋のオーケストラを思わせる忙しいリズムと、津軽民謡のゆったり引き伸ばす声。

速さの違う二つの流れが交差し、曲の中に大きなうねりを作った。

P23|つがるの国のうた

八人の足取りは止まらない。

旋律が次から次へ追いかけてくる中、歌は自分たちの故郷の音を堂々と掲げる。

つがるの国のうたが

ヨーロッパで生まれた旋律の上で、「津軽」という言葉が響く。

遠く離れた二つの土地が、同じ一曲の中で隣り合わせになった。

P24|よされ、じょんがら、それもよいな

声はさらに弾む。

よされじょんがら
それもよいな

あいや節だけではない。

よされ節も、じょんがら節も、八人がこれまで触れてきた津軽の音だ。

走りながら次々に名前を呼ぶような歌に、三味線の撥が勢いよく応える。

P25|あ~い~や~節

曲の真ん中で、声が大きく伸びた。

あ~ い~ や~節

息を長く使う民謡の声。

その下では『天国と地獄』のリズムが休むことなく前へ進んでいる。

速い音と長い声。その対照が、かえって曲を大きく聞かせた。

P26|そりゃあ!!!

最後の直線。

演奏する八人の身体も、もうじっとしてはいられない。

音と動きが一つになった瞬間、全員の勢いが掛け声へ集まった。

そりゃあ!!!

掛け声が合図になり、ばらばらだった動きまで一気にそろう。

音楽室いっぱいに、運動会のゴールを駆け抜けたような熱が残った。

P27|演奏なのに全身運動ジャン……

曲が終わる。

楽器を弾いていただけのはずなのに、全員が本当に競走した後のように息を切らしていた。

はやり「シャビ~~。演奏なのに全身運動ジャン……」
かける「てやんでい、途中から勝手に走りやがって」

疲れていたはずのはやりが、すぐに顔を上げる。

はやり「シャビ。でも、かけっこじゃ負けないジャン!」

その横では、ともえが床へ沈み込みそうになっていた。

ともえ「じぇじぇじぇ・・オ、オラもう動けねえだ」

ひびきだけは、疲労よりも演奏の手応えを感じていた。

ひびき「全身でリズムが自然に身体に入ったのう!」

丹仁野先生が狙っていたのは、まさにそれだった。

P28|掛け声で心をつなぐ

息を整えながら、はやりはまだ自説を曲げない。

はやり「ほら! やっぱり運動会の曲ジャン!」

アコが笑いながら説明する。

アコ「『天国と地獄』はオペレッタの序曲。速い部分が運動会でも有名になったんだよ」

つむぎは演奏を振り返った。

つむぎ「あいやの掛け声が入ると、みんなの息が揃ったね」
丹仁野先生「民謡の掛け声は、演奏者と心をつなぐ力があるの」

ひびきが嬉しそうにうなずく。

ひびき「ほんに迷子になっても、繋がれるんじゃのう!」

クラシックでは拍と譜面を共有し、民謡では声と呼吸を共有する。

方法は違っても、みんなでひとつの音へ向かうための仕組みなのだ。

二曲目を終えた八人。

次に待っていたのは、明るい運動会とは正反対の世界だった。

音楽室の空気が、ゆっくり暗くなる。

次の課題は――怪談。

第4章|P29–P39 怪談――トッカータとフーガ×三下がり
P29|次はお化け屋敷の曲?

運動会の熱気が残る音楽室に、今度は重く不気味な空気が流れ始めた。

丹仁野先生「さあ、次の曲はこれよ。」

譜面を見たはやりが、すぐに反応する。

はやり「次はお化け屋敷の曲みたいジャン!」
かける「てやんでい! 『トッカータとフーガ』だ! てめえのレベルにすんな!」

アコは楽しそうに笑った。

アコ「Girl、その発想、面白いね! 次は怪談。」
丹仁野先生「そうね! お化け屋敷で涼みましょう。みんな好きなお化けをイメージして!」

暑い夏の合宿に、今度は背筋が冷える課題が始まろうとしていた。

P30|妖怪はくじ引きで決めよう

前回の牛役がよほど不満だったのか、たいきちは今度こそ自分で配役を守ろうとする。

はやり「たいきちとりゅうこうはオマカセ♡ジャン!」
たいきち「同じ手は喰わんぞ! 今度はくじ引きにせんね?」

たいきちの頭には、勇ましい鬼や天狗の姿が浮かんでいる。

たいきち「おいはかっこよか鬼か天狗がよかのう」
丹仁野先生「そうね。くじ引きなら公平ね。じゃあみんな、思いつく妖怪を書いて。」

紙にそれぞれ好きな妖怪を書き、抽選箱へ入れていく。

公平なはずのくじ引き。

けれど、たいきちにはまだ不吉な予感がしていなかった。

P31|はやりたちの妖怪候補

妖怪の名前を書きながら、はやりとひびきは好き勝手に候補を口にする。

はやり「ぬりかべとかピッタリジャン!」
ひびき「から傘お化けもええのう!」

たいきちは思わず顔をしかめる。

たいきち「なんや? センスなかっちゃん! やけんがきさんたちゃお似合ばい!!」

誰が何を引くのか。

笑いながら書いた紙が、次々と抽選箱へ落ちていった。

P32|怪談トッカータフーガ三下がり・配役決定

抽選結果が発表された。

雪女――ともえ。

猫又――はやり。

ぬりかべ――たいきち。

から傘――りゅうこう。

天狗――かける。

九尾狐――アコ。

鬼――つむぎ。

河童――ひびき。

たいきちは結果を見た瞬間、声を張り上げた。

たいきち「なして? おいがぬりかべになっとうや!」

公平なくじ引きだったはずなのに、なぜか一番嫌がっていた配役に落ち着いてしまった。

音楽室は笑い声に包まれた。

P33|怪談、開幕

灯りが落ちたように、空気が一変する。

重く響く『トッカータとフーガ』。

そこへ三味線の三下がりが、細く不気味に絡みつく。

♪ 人の世に

西洋の教会を思わせる荘厳な闇と、日本の怪談の湿った気配。

二つの恐ろしさが重なり、音楽室はまるで夜の異界へ変わった。

P34|生きる喜び、噛み締めながら

妖怪たちが静かに姿を現す。

怖い姿をしていても、歌われる言葉は意外なほど人間らしい。

♪ 生きる喜び
噛み締めながら

生きているからこそ感じられる喜び。

怪談の世界の中でその言葉が響くことで、歌には不思議な深みが生まれていた。

P35|唄い語るも

三味線の音が前へ出る。

音を鳴らすだけではなく、まるで昔話を語るように一音一音が進んでいく。

♪ 唄い語るも

西洋のフーガが複数の旋律を追いかける一方で、三味線は言葉を背負うように響く。

異なる二つの「語り方」が、同じ怪談の世界を作っていた。

P36|三下がり

空気がさらに低く沈む。

三味線の調弦が生む独特の陰りが、怪談の景色を深くする。

♪ 三下がり~

伸びる声の後ろで、三味線の余韻がゆっくり消えていく。

恐ろしさの中に、どこか哀しさまで混じっていた。

P37|うらめしやあ!!

静かに積み重ねてきた怪談の世界が、最後に一気に弾けた。

♪ うらめしやあ!!

妖怪たちの声と楽器が重なり、恐怖というよりも祭りのような勢いに変わっていく。

怖いはずなのに、どこか楽しい。

八人らしい怪談演奏は、そんな不思議な余韻を残して終わった。

P38|最後は四季「夏」×よされ節

怪談演奏を終えた八人に、丹仁野先生が最後の課題を告げた。

丹仁野先生「最後はビバルディ四季『夏』とよされ節の融合よ」

「夏」という言葉を聞いた瞬間、はやりの頭の中は音楽とは別の方向へ飛ぶ。

はやり「夏といえば、かき氷にスイカジャン!」

アコは、そんな反応を最初から予想していたらしい。

アコ「Girl、そうくると思って差し入れもってきたよ。」
はやり「シャビッ♡」

最後の大曲を前に、思いがけない休憩時間になった。

P39|冷たい差し入れで最後のチャージ

冷たい差し入れが、火照った身体へ染み込んでいく。

かける「ありがてえ! 先生は鬼だが、アコねえは天使にみえるぜ!」

丹仁野先生が静かに微笑む。

丹仁野先生「あら! かけるさん、どういう意味かしら?」

かけるの背筋に別の意味で冷たいものが走った。

ひびき「ひゃっこいのう」
ともえ「んだ。生き返るだ」
たいきち「よう冷えて、うまかっちゃん!」
はやり「最後の曲の前にチャージジャン!!」

笑い声とともに体力も戻ってきた。

残る曲は、ただ一つ。

合宿最後の大航海が始まる。

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第5章|P40–P50 大航海――ヴィヴァルディ四季「夏」×よされ節
P40|ファイナルは海!

休憩を終え、丹仁野先生が最後の譜面を構える。

丹仁野先生「じゃあ、いよいよファイナル。ビバルディ四季『夏』×よされ節、行くわよ」

今回の演奏テーマは海。

丹仁野先生「次の曲のテーマは海で、みんな、イメージを書いて抽選箱に入れて」
はやり「夏といえば海! 海ジャン!」
アコ「OK! じゃあ次は海がテーマだね」

怪談の妖怪に続き、最後も役になりきって演奏する。

八人は思い思いの「海」を紙へ書き始めた。

P41|今度こそかっこいい役を!

たいきちは、これまでの配役を思い返して気合を入れ直す。

たいきち「今度こそ! かっこよか配役引くばい! おいはキャプテン船長たい!」

ところが周囲から出てくる候補は、彼の理想とは少し違っていた。

たいきち「タコに亀げな。きさんたちゃほんとセンスないったい。」
ひびき「ウチは亀がええのう!」
はやり「タコの方が似合うジャン!」
たいきち「なんば笑いよっとか! きさんたちゃ真面目に考えんね!」

嫌な予感が、また少しずつ近づいていた。

P42|海の配役、抽選結果発表

最後の抽選結果が発表される。

船長――かける。

海賊――つむぎ。

海賊――ひびき。

海賊――はやり。

セイレーン――アコ。

セイレーン――ともえ。

赤タコ――たいきち。

緑亀――りゅうこう。

結果を見たたいきちは、しばらく言葉を失った。

たいきち「??? なしておいがタコになっとうや?!」

船長を引くはずだった男は、ついに八本足の海の生き物になった。

周囲では、誰かが笑いをこらえていた。

P43|大航海LIVE、出航!

ヴィヴァルディ『四季・夏』の緊張感ある旋律が鳴り始める。

しかし八人の頭の中に広がる景色は、コンサートホールではない。

荒波を進む大きな船だった。

かける「面舵いっぱい! 全速前進!!」

船長かけるの号令に、海賊たちが一斉に動く。

夏の嵐を思わせるクラシックの激しさと、よされ節の力強い拍が船を前へ押し出した。

P44|ハア~調子がわりの

波のようにうねる演奏の中から、民謡の声が立ち上がる。

♪ ハア~調子がわりの~~~~♪

ヴィヴァルディの鋭い夏の嵐へ、津軽の伸びやかな声がまっすぐ通っていく。

激しい弦の動きの中でも、民謡の節は決して埋もれなかった。

P45|よされ節、ハイ~~!

大航海はさらに勢いを増す。

♪ よされ節~~♪
♪ ハイ~~♪

掛け声に合わせて、八人の呼吸が一つになる。

クラシックの激しいリズムを追いかけながら、よされ節の声が船の帆をいっぱいに膨らませるように響いた。

P46|そらヨイヤ!

嵐の海を突き進むように、曲は最高潮へ向かう。

そら! ヨイヤ~!
よされよされ そらヨイヤ!

一人の声に別の声が応え、さらに楽器が返す。

掛け声は合図であり、仲間同士をつなぐロープのようでもあった。

P47|よされ!! そりゃあ!

最後の一撃。

よされ!! そりゃあ!

八人の音が同時に前へ飛び出した。

ヴィヴァルディの夏、津軽のよされ節、歌、掛け声、八人それぞれの楽器。

長い合宿で学んできたものが、ひとつの大きな響きになって着地した。

しばらく、誰もすぐには口を開かなかった。

最後の余韻だけが、音楽室に残っていた。

P48|クラシック合宿、修了!

丹仁野先生が、八人を見渡した。

丹仁野先生「以上で合宿修了よ! みんな本当に頑張ったわね!」

ようやく終わった――。

そう思った瞬間、たいきちが勢いよく前へ出た。

たいきち「ばってん! 今度はおいたちに付き合ってもらうっちゃん!」
はやり「シャビ!? まだヤル気ジャン!?」

ともえが事情を説明する。

ともえ「夏休み最終日、町会の夏祭りがあるだよ」
ひびき「おまんらとセッション出来たら最高じゃ!」
たいきち「おいたちの晴れ舞台たい!」

クラシック合宿の終わりは、そのまま次の舞台への入り口だった。

P49|アコとの別れ、そして夏祭りへ

楽器を片づけ始める中、アコが静かに告げた。

アコ「アタイはここでお別れだね」

かけるが振り返る。

かける「アコねえ! また会えるよな」

クラシック合宿を一緒に駆け抜けた仲間との別れ。

少しだけ寂しい空気が流れたが、はやりは立ち止まってはいなかった。

はやり「ホレ ホレ 行くじジャン!」
みんな「先生、ありがとうございました。」

こうして私たち三味線クラブのクラシック合宿は幕を閉じた。

けれど夏休みは、まだ終わっていない。

最後に待つのは、町会の夏祭り。

P50|次回予告 夏祭る! 盆踊る!

三味線クラブ、夏休み最後の大イベント。

舞台は町会の夏祭りへ!

「三味線クラブ夏休みの最後は!」
「夏祭る!」
「シャミる!」
「盆踊る!」

太鼓、盆踊り、屋台――。

はやりが真っ先に反応したのは、やはり音楽とは別のところだった。

はやり「屋台(食べ物)もぜってえ見逃さねえジャン!!」
「ドン!」
「次回もぜってえみてくれよな!」
かける「てやんでい 俺の決め台詞パロってんじゃねえ!」

クラシックの世界を旅した三味線クラブは、再び日本の夏へ帰ってくる。

次回――第12話。

夏祭り、盆踊り編。

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