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シャミる第5話|シャミり。ライバル登場 津軽三味線の基本

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第5話登場人物紹介


つむぎ主人公三味線クラブづくりに奔走中

はやり つむぎの大親友。ムードメーカー

りゅうこう 冷静
無口、祖母は三味線弾き

かける 江戸っ子
男勝り喧嘩早が情に厚い

ザンヌ 吹奏楽クラブサックス担当 フランス人母のハーフ。ザンスの娘

ジュラ 吹奏楽クラブホルン担当 スイス人母のハーフ。ズラの娘

マロ 吹奏楽クラブ雅楽の笙(しょう)担当 おじゃるが口ぐせ。トンデモ商事跡取り息子。

吹奏楽クラブ顧問
第3話で音楽室の使用をかけて課題を出しつむぎ達にかけるを紹介

第5話漫画版

目次

シャミる!第5話シャミり。ライバル登場。三味線の基本 小説版

元のP1〜P7本文を、第4話と同じCSS型・台詞縦線付き・ザンヌ黄緑カラー版へ変換しました。
P1|小説版の使い方ガイド

漫画版のP1は、扉絵です。

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つむぎが三味線を抱え、小さな音に耳をすませる一枚絵。そこには、第5話の合言葉になる「しゃみり。」という小さな一音が込められています。

小説版では、扉絵の代わりに、このページを読み方ガイドとして使います。

漫画版では、表情、立ち位置、コマの間で感じる空気を目で追います。小説版では、その場面でつむぎが何を感じ、はやりが何に反応し、りゅうこうが何を聴き、かけるが何を見ていたのかを、少し深くたどっていきます。

第5話は、三味線クラブが本当に動き出す回です。

けれど、いきなり上手くなる話ではありません。

まずは、構え方。

まずは、バチの持ち方。

まずは、たった一つの音。

「シャミる!」という大きな夢に届く前の、小さくて、でも確かな音。

それが、第5話のタイトル「しゃみり。」です。

ここから先は、ページタイトルをクリックしながら、漫画版の各ページに合わせて読み進めてください。

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P2|三味線クラブのスタートライン

澄美田小学校の校門に、夕日が差していました。

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つむぎ、はやり、りゅうこう、そして、かける。

それぞれの背中には、三味線がありました。

ほんの少し前まで、つむぎにとって三味線は、遠くから聴こえてくる不思議な音でした。

音楽室の前で足を止め、はじめてその音に引き寄せられた日。あの日から、つむぎの中で何かが少しずつ変わりはじめていました。

大親友のはやりは、いつものように明るく背中を押してくれました。

無口なりゅうこうは、多くを語らないまま、けれど確かな音でそこにいてくれました。

そして、創業嘉永三年の老舗三味線店「しゃみよし」の娘、かける。

三味線のことを誰よりも知り、けれどそれを軽々しくは語らない先輩が、つむぎたちの仲間になりました。

つむぎは、三味線をぎゅっと抱えました。

つむぎ「三味線クラブ……本当に始まるんだ」

声に出すと、まだ少しだけ信じられない気がしました。

でも、四人はもう、同じ場所に立っていました。

三味線クラブのスタートラインに。

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P3|申請書を持って、職員室へ

放課後の廊下は、少しだけ静かでした。

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窓から入る夕方の光が床に長く伸びて、四人の足音だけが、こつこつと響いています。

つむぎは、両手で申請書を持っていました。

紙の上には、まだ見慣れない文字が並んでいます。

部活動設立申請書。三味線部。

その文字を見るだけで、胸の奥がきゅっとなりました。

はやり「善は急げジャン!」

はやりは、まるで運動会のスタート前みたいに前のめりでした。ピンクのリボンが、歩くたびにぴょんぴょん揺れます。

その横で、かけるが申請書をのぞき込みました。

かける「字、間違えんなよ」

つむぎ「う、うん……」

つむぎは返事をしましたが、手元の紙は少し震えていました。

つむぎ「緊張で手が……」

自分でもおかしくなるくらい、指先に力が入っています。

そのとき、りゅうこうが横から静かに言いました。

りゅうこう「……落ち着け」

いつも通りの、短い言葉。

でも、不思議と少しだけ呼吸が戻ってきました。

四人は職員室の前で立ち止まりました。

つむぎは、扉を見上げます。

ここを開けたら、もう戻れない。

でも、戻りたいとは思いませんでした。

つむぎは胸の中で、そっとつぶやきました。

ついに……ここから始まるんだ。

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P4|月・水・金、音楽室使用許可

職員室の中は、紙の音と、先生たちの小さな声で満ちていました。

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つむぎたちは、丹仁野先生の前に並びました。

丹仁野先生は、申請書に目を通してから、ゆっくり顔を上げました。

丹仁野先生「三味線クラブを正式クラブとして認めます」

その瞬間、つむぎの胸の中で、何かがぱっと花開きました。

丹仁野先生「それから、放課後、月・水・金で音楽室が使えます」

つむぎ「週3回も……!」

思わず声が明るくなりました。

週に三回。

それは、つむぎにとって、ただの日数ではありませんでした。

三味線に触れられる日。

音を出せる日。

みんなと練習できる日。

はやりは、もう我慢できないというように拳を上げました。

はやり「もうクラブっぽいジャン!」

りゅうこう「……っぽいのはおまえだけだ」

はやり「直ぐ追いつくジャン!」

はやりがむきになって、りゅうこうへ飛びかかりそうになります。

その背中を、かけるがあわてて引き留めました。

かける「バカやろう。職員室で喧嘩すんなって!」

丹仁野先生「喧嘩はどこでもダメです!」

丹仁野先生は、怒るというより、少し楽しそうに笑いました。

かけるは、まいったな、という顔をしました。

はやりは、にこにこと笑っています。

つむぎも、つられて笑ってしまいました。

三味線クラブは、まだ始まったばかりです。

それでも、もう確かに、四人の居場所になりかけていました。

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P5|ここからが正念場

職員室を出ると、はやりはすぐに跳ねました。

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はやり「やったジャン!」

その声は、廊下の天井まで届きそうなほど元氣でした。

つむぎも、心の中では同じ気持ちでした。

認められた。

音楽室が使える。

本当に、三味線クラブが始まる。

けれど、その浮き上がった空気を、かけるが一言で引き締めました。

かける「浮かれんな。ここからが正念場だ」

かけるの声には、三味線を知っている人の重みがありました。

楽器を手に入れたからといって、音が出るわけではない。

クラブになったからといって、すぐに演奏できるわけではない。

かけるは、少し身を乗り出すようにして言いました。

かける「初心者は練習あるのみでい!」

つむぎ「はい!」

つむぎは、まっすぐ返事をしました。

その横で、はやりが急にりゅうこうを指さします。

はやり「練習してコイツを追い越すジャン!」

りゅうこうは、そっぽを向いたまま何も言いませんでした。

りゅうこう「……」

その沈黙が、逆にはやりの対抗心に火をつけたようでした。

つむぎは苦笑しながら、三味線ケースの肩ひもを握り直しました。

ここから先は、気持ちだけでは進めない。

けれど、気持ちがなければ、きっと続けられない。

つむぎは、小さくうなずきました。

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P6|初練習の日

日が変わり、放課後になりました。

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つむぎは、黄色の三味線ケースを抱えて廊下を歩いていました。

はやりはピンク。

りゅうこうは深緑。

かけるは藍色。

それぞれの色のケースが並ぶと、ただの廊下が少しだけ特別な場所に見えました。

つむぎは胸の中でつぶやきました。

初練習の日。

はやりは、さっそくスキップしながら歌い始めます。

はやり「シャミる〜 シャミる〜♪」

その声は、放課後の廊下に元氣よくはねました。

すかさず、かけるがつっこみます。

かける「てやんでい! 変な歌つくってんじゃねえ!」

はやりは少しも悪びれません。

つむぎは、思わず笑ってしまいました。

つむぎ「でも、ちょっと気持ちはわかるかも」

だって、足が軽いのです。

だって、音楽室へ向かっているのです。

いつもなら、ただ通り過ぎるだけの廊下。その途中にある音楽室の扉が、今日は目的地になっていました。

音楽室は、廊下の奥ではありません。

教室が並ぶ廊下の途中にある、木の開き扉。その先には掲示板があり、さらに先には階段へ続く空間があります。

四人が音楽室の前に近づいた、そのときでした。

扉の向こうから、音が聞こえてきました。

トン、トン。トントン。どこか妙に耳に残るリズム。

りゅうこうが、ふと顔を上げました。

りゅうこう「……音?」

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P7|トン・トン・トンデ・モ〜ン!

四人は、音楽室の扉の前で足を止めました。

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木の開き扉の向こうから、リズムがこぼれてきます。

トン・トン・トンデ・モ〜ン!

続いて、さらに細かいリズム。

トトト・トントン・トン・デ・モ〜ン!

変です。

ものすごく変です。

でも、一度聞くと、なぜか頭から離れません。

はやりが、ぽかんとした顔で言いました。

はやり「……何ジャン、この中毒性」

つむぎは、首をかしげました。

つむぎ「なんか聞き覚えが……」

はっきりとは思い出せません。

けれど、その妙にクセのある響きには、どこかで聞いたような気配がありました。

りゅうこうは黙って耳を澄ませています。

かけるは、少し眉を寄せました。

音楽室は、廊下の途中にあります。

だから、四人の横を通り過ぎれば、先の掲示板や階段へ向かうこともできます。

けれど、この音を聞いてしまったら、通り過ぎることなんてできませんでした。

かけるが、音楽室の開き扉に手をかけます。

つむぎの胸が、どきんと鳴りました。

扉の向こうで、何かが待っている。

かけるは、短く言いました。

かける「開けるぞ」

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P8|音楽室の中のトンデモンダンス

かけるが、音楽室の扉に手をかけました。

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かける「開けるぞ」

ぎい、と木の扉が動いた瞬間、廊下にまで漏れていた不思議なリズムが、いっきに四人を包み込みました。

トン・トン・トンデ・モ〜ン!

音楽室の中央には、三人の子どもが立っていました。

右には、黄緑色のリボンを揺らした金髪の女の子。片手にサックスを持ち、もう片方の手をすっと伸ばして、まるでステージの主役みたいに笑っています。

真ん中には、赤と灰色の衣装をまとった、色白で丸いほっぺの男の子。日の丸みたいな赤い頬をして、笙を高く掲げ、すました顔で胸を張っています。

左には、水色のリボンとホルンを抱えた女の子。ふんわりした体つきなのに、表情はとても落ち着いていて、少しも慌てた様子がありません。

三人の後ろには、音符のような光が跳ねていました。

もちろん、本物のスポットライトがあるわけではありません。

けれど、つむぎには、音楽室の真ん中だけが舞台になったように見えました。

ザンヌ「トン!」

ジュラ「デ!」

マロ「モ〜ン!」

黄緑の女の子が、サックスを構えて小悪魔みたいに笑います。

水色の女の子が、ホルンを抱えたまま涼しい顔で決めます。

赤と灰色の男の子が、袖を広げて麻呂のようにポーズを取りました。

三人がそろって、最後の決めポーズを取ります。

つむぎは、ぽかんと口を開けたまま固まりました。

はやりも、りゅうこうも、かけるも、すぐには何も言えません。

変です。

ものすごく変です。

でも、その変なポーズには、なぜかどこかで見たような気配がありました。

つむぎは、胸の中でつぶやきました。

この変なポーズ、どこかで見覚えが……!?

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P9|耳に残るジャン!

三人は、音楽室の真ん中でさらに踊りはじめました。

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黄緑の女の子は、サックスを片手に、くるりと軽く足を運びます。

ザンヌ「ザンヌ!」

その声は、妙に自信たっぷりでした。

水色の女の子は、ホルンを抱えたまま、涼しい顔で一回転します。

ジュラ「ジュラ。」

語尾まで落ち着き払っていて、まるで自分の名前を音符の一つにしているみたいでした。

赤と灰色の男の子は、袖をふわっと広げて、笙を高く掲げました。

マロ「マロでおじゃる!」

その瞬間、三人の音が重なります。

サックスのきらびやかな音。

ホルンのまるい音。

笙の不思議に広がる音。

それぞれの音はまったく違うのに、三人でそろうと、ひとつの妙なリズムになりました。

トントン・トン・デ・モ〜ン!
トトト・トントン・トン・デ・モ〜ン!

変です。

やっぱり変です。

けれど、さっきよりもさらに耳に残ります。

はやりは、両手で耳を押さえました。

はやり「シャビ!! 耳に残るジャン!」

嫌そうに言っているのに、足先が少しだけリズムに合わせて動いています。

つむぎは、それに気づいてしまいました。

はやり、ちょっとノッてる。

そう思った瞬間、つむぎ自身の頭の中にも、あのリズムがぐるぐる回りはじめました。

トントン・トン・デ・モ〜ン。

トトト・トントン・トン・デ・モ〜ン。

口に出してはいけない気がするのに、口に出したくなってしまう。

それが、トンデモンダンスの怖いところでした。

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P10|トンデモ商事?

音楽室に残ったリズムは、まだ四人の耳の中で跳ねていました。

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つむぎは、自分でも気づかないうちに、ほんの小さく口を動かしていました。

つむぎ「トン♪ トン♪ トンデモ……」

その瞬間、かけるの眉がぴくっと動きました。

かける「てやんでい! ノッテんじゃねえ!」

つむぎ「あっ」

つむぎは、はっとして口を押さえました。

乗るつもりなんて、まったくありませんでした。

ありませんでしたが、あのリズムは、頭の中に勝手に入り込んできます。

はやりの足も、まだ少しだけ動いていました。

かけるは、二人を見て、さらにむっとしました。

その横で、りゅうこうだけは黙っていました。

ただ、耳を澄ませるように、音楽室の真ん中に立つ三人を見ています。

りゅうこうの目が、少しだけ細くなりました。

りゅうこう「……トンデモ商事?」

つむぎ「え?」

つむぎが聞き返します。

はやりは、はっと顔を上げました。

はやり「そういえば、見覚えあるジャン?!」

見覚え。

そう言われて、つむぎの中でも、ぼんやりしていた記憶が少しずつ形を持ちはじめました。

あの妙に大げさな決めポーズ。

あの耳に残るリズム。

そして、あの「トンデモ」という言葉。

どこかで見たことがある。

どこかで聞いたことがある。

それは、三味線店「しゃみよし」に現れた、あの大人たちの気配と、どこか似ていました。

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P11|親子揃って濃い……

かけるが、一歩前に出ました。

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つむぎたちの前に立つその背中は、いつもより少し大きく見えます。

かける「やいやい! てめえらナニモンだ!」

かけるの声が、音楽室に響きました。

黄緑の女の子は、待っていましたとばかりに胸を張りました。

サックスをきらりと光らせ、口元に小悪魔みたいな笑みを浮かべます。

ザンヌ「わたくし、CMでも御馴染み、あなたの街のトンデモ商事ザンスの娘、ザンヌ!」

つむぎは、思わず心の中でくり返しました。

ザンスの娘……。

その言い方にも、表情にも、どこかで見たような押しの強さがあります。

続いて、水色の女の子がホルンを抱えたまま、涼しい顔で言いました。

ジュラ「ズラの娘、ジュラ。」

こちらは短い一言でした。

けれど、何もかも知っているような落ち着きがあって、逆に迫力があります。

最後に、赤と灰色の衣装をまとった男の子が、ゆっくり袖を広げました。

笙を持つ姿は、まるで小さな貴族のようです。

マロ「トンデモ商事の跡取り、マロでおじゃる」

つむぎたちは、そろって固まりました。

ザンス。

ズラ。

そして、トンデモ商事の跡取り。

しゃみよしで見た大人たちの影が、三人の後ろにちらつきます。

つむぎは、ぽかんとしたまま思いました。

やっぱり親子揃って濃い……。

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P12|音楽室は誰の場所?

名乗りを聞いても、かけるの勢いはまったく落ちませんでした。

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むしろ、さらに眉をつり上げます。

かける「トンデモだかトンマだか知らねえが、今日は三味線クラブの練習日のはずだろうが!」

かけるの指先は、まっすぐ三人に向いていました。

けれど、ザンヌは少しもひるみません。

サックスを片手に持ったまま、もう片方の手をひらりと上げます。

ザンヌ「覗き見した上に、無礼な言いがかりとは、呆れてモノが言えないザンヌ」

かける「覗き見じゃねえ! 扉の前まで音が漏れてたんだよ!」

かけるが言い返そうとしたその前に、ジュラが静かに口を開きました。

ジュラ「音楽室は吹奏楽クラブの練習場所ジュラ!」

淡々とした声でした。

でも、言っていることははっきりしています。

ここは自分たちの場所だ、と。

その言葉に、はやりが黙っているはずがありません。

はやりは一歩前に出て、胸を張りました。

はやり「月水金三味線クラブの練習で、顧問の白髪頭と話は、ついてるはずジャン!!」

「顧問の白髪頭」という言い方に、つむぎは一瞬だけ目を丸くしました。

でも、言いたいことはわかります。

ちゃんと許可はもらっている。

月曜、水曜、金曜は、三味線クラブが音楽室を使っていい日です。

ところが、マロはゆっくりと袖を広げました。

マロ「そんな話はマロ達には関係ないでおじゃる」

笙を持つ手つきまで、どこか偉そうです。

マロ「この学校にもマロ達から多額の寄付、音楽室もたくさん寄付がおじゃる」

空気が、少しだけ重くなりました。

寄付。

つむぎには、その言葉が急に大人の世界のものに聞こえました。

練習したいだけなのに。

音楽室を使いたいだけなのに。

そこに、学校の事情や会社の名前が入り込んでくる。

はやりは怒っていました。

かけるも、今にも飛び出しそうな顔をしています。

りゅうこうは、いつものように黙っていました。

でも、その目だけは、静かに三人を見ていました。

つむぎは、三味線ケースの肩ひもをぎゅっと握りました。

音楽室は、誰か一人のものじゃない。

そう思ったけれど、まだ声にはできませんでした。

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P13|寄附マウント

マロは、まるで自分の城を案内する殿様のように、音楽室の中をゆっくり見回しました。

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そして、譜面台や椅子、楽器棚の方へ、すっと袖を広げます。

マロ「この音楽室の備品も、我が家の寄附で成り立っているでおじゃる」

つむぎ「えっ」

つむぎは、思わず声をもらしました。

音楽室の備品。

譜面台。

椅子。

楽器を置く棚。

今まで当たり前に学校にあると思っていたものが、急に別の意味を持ったように感じました。

はやりも、一歩だけ後ろに下がります。

はやり「急に大人の事情ジャン!」

その声には、驚きと、少しの戸惑いが混じっていました。

すると、ザンヌが得意げに笑いました。

ザンヌ「格が違うザンヌ」

マロも、目を細めて続けます。

マロ「サッサと立ち去るでおじゃる」

その言い方に、かけるの眉がつり上がりました。

さっきまで先生の一言で少し落ち着いていた空気が、またじりっと熱を帯びます。

かける「べらんめい! 親のななひかりで偉そうにするない!」

かけるの江戸っ娘らしい声が、音楽室に響きました。

はやりは、思わず「かける先輩、言い方!」と言いかけましたが、完全には止められません。

つむぎも、胸の奥がざわざわしました。

寄附があるから、強い。

お金を出しているから、場所を使える。

そんなふうに言われると、自分たちの三味線クラブが、まだとても小さくて弱いものに思えてしまいます。

そのときでした。

吹奏楽クラブ顧問「STOP!! 両者そこまで!!」

低く、よく通る声が、音楽室の入口から飛んできました。

全員が、いっせいに振り向きます。

入口には、白髪の男性が立っていました。

黒い服。

深い赤のマフラー。

厳しいけれど、どこか品のある目。

音楽室の空気が、一瞬で静まりました。

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P14|音楽室もみんなの場所

音楽室の入口に立っていたのは、吹奏楽クラブの顧問でした。

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白い髪を後ろへ流し、黒い服に赤いマフラーを合わせた姿は、学校の先生というより、まるで舞台に立つ指揮者のようでした。

けれど、その目は静かでした。

怒鳴るわけでもありません。

どちらか一方を責めるわけでもありません。

ただ、音楽室にいる全員を見渡してから、ゆっくりと言いました。

吹奏楽クラブ顧問「確かに寄附はありがたいです」

マロは、少しだけ胸を張り直しました。

でも、先生の言葉はそこで終わりませんでした。

吹奏楽クラブ顧問「でも、学校は公共の場で、音楽室もみんなの場所です」

その一言で、音楽室の空気が変わりました。

ザンヌは、ほんの少しだけ視線をそらしました。

ジュラも、ホルンを抱えたまま、むすっとした顔で黙ります。

マロは、頬の赤い丸をさらに赤くしたように見えました。

つむぎは、胸の奥がすっと軽くなるのを感じました。

音楽室は、誰か一人のものではない。

お金を出した人だけのものでもない。

音を大切にする人たちが、ルールを守って使う場所。

それを、大人の先生がはっきり言ってくれたのです。

かけるの表情が、ぱっと明るくなりました。

さっきまで怒りで尖っていた目が、今度は感心したように輝きます。

かける「先生、その粋やよし!!!」

かけるらしい、まっすぐな言葉でした。

はやりも、つむぎも、思わずうなずきます。

りゅうこうは腕を組んだまま、静かに先生を見ていました。

吹奏楽クラブ顧問は、少しも表情を崩しません。

けれど、つむぎには、その厳しい目の奥に、音楽を大事にする人の優しさがあるように見えました。

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P15|ザンヌの挑発

先生の言葉で、音楽室は少し落ち着きを取り戻しました。

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けれど、ザンヌはまだ引きません。

彼女は、つむぎの持っている三味線をちらりと見ました。

黄緑のリボンが、窓からの光を受けて小さく揺れます。

ザンヌ「確かに音楽室は公共の場ザンヌ」

その声は、さっきよりも少し落ち着いていました。

でも、柔らかくなったわけではありません。

ザンヌは、小悪魔のように口元を上げます。

ザンヌ「でも限りあるスペース、誰でもという訳では無いザンヌ」

つむぎは、びくっと肩を震わせました。

その言葉は、はっきりと自分に向けられているとわかったからです。

誰でも、ではない。

使うだけの理由があるのか。

音楽室にふさわしい音を出せるのか。

そう問われている気がしました。

つむぎは、三味線を握る手に力を込めます。

つむぎ「受け継がれて来た伝統の三味線、音はシッカリ鳴ります!」

声は少し震えていました。

けれど、言い切りました。

その横で、はやりも一歩前に出ます。

はやり「ヤル気も覚悟もあるジャン!」

はやりの言葉は、いつもの「ジャン!」より少しまじめでした。

つむぎを守りたい。

三味線クラブを守りたい。

その気持ちが、まっすぐに出ていました。

けれど、ザンヌはその言葉を待っていたように近づきます。

つむぎのすぐ前まで来て、声を落としました。

ザンヌ「伝統と覚悟。確かに聞えはいいザンヌ」

その緑の目が、つむぎをまっすぐ見つめます。

ザンヌ「ですが、しっかり音が鳴らせれば、の話ザンヌ」

つむぎの胸が、どきんと鳴りました。

音が鳴らせれば。

それは、いま一番言われたくない言葉でした。

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P16|これが音楽ザンヌ!

ザンヌは、ゆっくりと一歩前に出ました。

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サックスを手に取る仕草まで、まるで舞台の上の演奏者のようです。

ザンヌ「では、お手本を見せるザンヌ」

つむぎは、息をのみました。

さっきまで挑発的だったザンヌの表情が、楽器を構えた瞬間、少しだけ変わったからです。

小悪魔のような笑みは残っています。

けれど、その奥に、音楽へ向かう集中がありました。

ザンヌは、サックスを構えます。

黄緑色のリボンが、肩の動きに合わせて揺れました。

音楽室の空気が、すっと引き締まります。

次の瞬間、サックスの音が鳴りました。

明るくて、軽やかで、少し大人びた音。

窓から差し込む光まで、その音に合わせて弾んでいるようでした。

つむぎは、目を見開きます。

すごい……!

それは、悔しいほど、きれいな音でした。

ザンヌは、ただ目立ちたいだけではありません。

ちゃんと練習してきた音。

ちゃんと人に聴かせる音。

その音が、つむぎの胸にまっすぐ届いてしまいました。

はやりも、さっきまでの勢いを少し失って、口を開けたまま聴いています。

りゅうこうは黙っていました。

けれど、その目は音を追っていました。

かけるも、悔しそうに眉を寄せています。

ザンヌは演奏を終えると、サックスを手にしたまま、すっとつむぎの方へ視線を向けました。

ザンヌ「これが音楽ザンヌ!」

その言葉は、自慢でした。

でも、ただの自慢ではありません。

音で見せつけられたからこそ、つむぎは何も言い返せませんでした。

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P17|鳴らない……!

ザンヌは、サックスを下ろすと、つむぎの方へ手を差し出しました。

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その仕草は、まるで次の演奏者をステージへ招く司会者のようでした。

ザンヌ「では、今度はあなたの伝統と覚悟の音色を聞かせてザンヌ」

つむぎは、何も言えませんでした。

喉の奥が、きゅっと詰まります。

さっき、自分で言いました。

受け継がれて来た伝統の三味線。

音はしっかり鳴ります、と。

でも、本当に鳴らせるのか。

自分の手で、ちゃんと音にできるのか。

つむぎは、震える手で三味線を構えました。

胴を抱える腕が、少し硬くなっています。

バチを持つ指にも、力が入りすぎていました。

わかっています。

力みすぎている。

でも、どうやって力を抜けばいいのか、今のつむぎにはわかりません。

つむぎは、息を吸いました。

そして、バチを弦に当てます。

……スカッ

音は、鳴りませんでした。

鳴ったような気もしたけれど、音楽室に響くような音ではありません。

空気を切ったような、からっぽの音だけが残りました。

つむぎ「……っ」

つむぎの目が、大きく見開かれました。

胸の奥が、すうっと冷たくなります。

ザンヌは、肩をすくめました。

ザンヌ「音が迷子ザンヌ!」

その言葉が、つむぎの胸に刺さりました。

音が迷子。

まさにその通りでした。

三味線の中にあるはずの音を、自分だけが見つけられない。

つむぎは、三味線の棹をぎゅっと抱えました。

目の奥が熱くなります。

泣きたくない。

ここで泣いたら、負けたみたいだから。

でも、涙は勝手ににじんできました。

鳴らない……!

つむぎは、心の中で叫びました。

自分の音が出ない悔しさが、音楽室の床に重く落ちていきました。

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P18|三味線歴1日を舐めるなジャン!

つむぎが、三味線を抱えたままうつむきました。

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鳴らなかった音。

音楽室に残った「スカッ」という軽い感触。

それが、つむぎの胸の奥にまだ残っていました。

その沈黙を破ったのは、はやりでした。

はやり「ちょっと待つジャン!!」

はやりは、つむぎの前に飛び出すように一歩出ました。

さっきまで耳に残るトンデモンダンスに少しだけ乗りかけていたとは思えないほど、今のはやりは真剣です。

はやり「今まで修羅場を潜り抜けて勝利を収めた実力みせてやるジャン!」

その言葉に、音楽室が一瞬だけ静まりました。

りゅうこうが、はやりの後ろでぼそっとつぶやきます。

りゅうこう「お前は何もしてない・・」

はやり「聞こえてるジャン!」

はやりは振り返りかけましたが、すぐに前を向き直りました。

相手はジュラです。

水色のリボンを揺らし、ホルンを抱えたジュラは、はやりを上から下まで静かに見ました。

その目には、怒りも焦りもありません。

ただ、はやりの構えを一目で見抜くような冷静さがありました。

ジュラ「あなた、構えから初心者丸出しジュラ」

はやりの眉が、ぴくっと動きました。

はやり「三味線歴1日を舐めるなジャン!」

そう言うと、はやりは勢いよくバチを振りました。

バンッ

音は出ました。

けれど、それは三味線の音というより、力任せに叩いた音でした。

はやり自身も、その瞬間に少しだけ気づきました。

鳴った。

でも、きれいじゃない。

ジュラは、少しも動じませんでした。

ホルンを抱えたまま、涼しい顔で言います。

ジュラ「音楽は、1日で弾けるようになるほど甘くないジュラ」

その一言は、はやりの勢いをまっすぐ受け止めて、静かに押し返すようでした。

はやりは、何も言い返せませんでした。

元氣だけでは届かない。

その現実が、はやりの胸にも初めて重くのしかかりました。

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P19|く、くやしいジャン……!

ジュラは、ゆっくりとホルンを構えました。

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その動きには、無駄がありません。

はやりのように勢いで前に出るのではなく、音を出す前から、もう音楽の形が整っているようでした。

ジュラは、はやりを見ました。

ジュラ「言葉より音で証明するジュラ」

その声は、冷たくも、大げさでもありません。

ただ、当然のことを言っているだけでした。

次の瞬間、ホルンの音が音楽室に広がりました。

まるく、深く、まっすぐな音。

空気が震えるような、けれど耳にはやわらかく届く一音でした。

つむぎは、思わず息を止めました。

はやりも、さっきまでの悔しさを忘れたように、その音を聴いてしまいます。

ジュラの音は、大きな声で勝ち誇るわけではありません。

でも、静かに「これが練習してきた音だ」と言っているようでした。

演奏を終えると、ジュラはホルンを少し下ろしました。

そして、変わらない落ち着いた顔で言いました。

ジュラ「練習もせずに 勝とうとは 浅はかジュラ」

はやりの目に、涙がにじみました。

怒り。

悔しさ。

そして、自分でもわかってしまったこと。

勢いだけでは、勝てない。

気持ちだけでは、音は整わない。

はやりは、ぎゅっとこぶしを握りました。

はやり「く、くやしいジャン……!」

その声は、いつものはやりより小さく、震えていました。

つむぎは、はやりの横顔を見ました。

自分だけじゃない。

はやりも悔しい。

三味線クラブは、まだ始まったばかりなのに、もう大きな壁にぶつかっていました。

“`
P20|音楽に余計な言葉はいらない

つむぎとはやりが、続けて打ちのめされました。

“`

音楽室の空気は、さっきまでのにぎやかさを失い、重く張りつめています。

その中で、マロがゆっくりとりゅうこうを見ました。

赤い丸いほっぺ。

すました表情。

そして、手には笙。

マロは、少しだけあごを上げて言いました。

マロ「おまえ、仲間がやられて黙ってみてるでおじゃるか?」

挑発するような言葉でした。

つむぎは、りゅうこうを見ました。

はやりも、涙をこらえたまま、りゅうこうの反応を待ちます。

けれど、りゅうこうは顔色を変えませんでした。

怒るでもなく、慌てるでもなく、ただ静かにマロを見返します。

そして、短く言いました。

りゅうこう「……音楽に余計な言葉はいらない」

音楽室が、また少し静かになりました。

りゅうこうの声は大きくありません。

でも、不思議とよく届きました。

マロの眉が、ぴくりと上がります。

マロ「む? 生意気でおじゃる」

二人の視線がぶつかりました。

マロは、雅な音を誇る者として。

りゅうこうは、黙って音を聴く者として。

そこには、つむぎやはやりのような大きな感情のぶつかり合いとは違う、静かな火花がありました。

かけるも、何も言わずに二人を見ています。

りゅうこうの目は、少しも逃げませんでした。

マロも、初めて少しだけ、相手を見直したような顔になりました。

“`
P21|間と呼吸。日本の雅。

マロは、ゆっくりと笙を構えました。

“`

それは、サックスやホルンとはまったく違う楽器でした。

何本もの竹が束ねられたような姿。

小さな手の中に、古い時代の空気を閉じ込めているような、不思議な存在感。

マロは、りゅうこうを見て言いました。

マロ「これを聴いても冷静でいられでおじゃるかな?」

そして、笙に息を吹き込みました。

音が、広がりました。

それは、まっすぐ飛んでくる音ではありません。

ふわりと空気に満ちて、音楽室の天井や壁に染み込むような響きでした。

威風堂々。

厳か。

そして、どこか遠い昔を思わせる音。

つむぎは、思わず顔を上げました。

つむぎ「なんて威厳に満ちた音なんだろう・・」

その反応を見て、マロは満足そうに目を細めました。

マロ「その反応、当然でおじゃる」

けれど、りゅうこうだけは違いました。

りゅうこうは、ただじっと聴いていました。

ほめるでもなく、驚くでもなく、怖がるでもありません。

音の中心を探すように、静かに耳を澄ませています。

そして、ぽつりと言いました。

りゅうこう「……間と呼吸。日本の雅」

マロの表情が、ほんの少し変わりました。

りゅうこうの言葉は、ただの感想ではありません。

音の大きさではなく、音と音のあいだ。

息の流れ。

そして、そこにある日本の美しさ。

それを、りゅうこうは聴き取っていました。

マロは、心の中でつぶやきます。

こいつ、マロの音にまったく動じてないでおじゃるか?

りゅうこうは、まだ何もしていません。

それなのに、マロの中には初めて、小さな警戒が生まれていました。

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P22|かける、爆発寸前

つむぎは鳴らせなかった。

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はやりは、勢いだけでは届かなかった。

りゅうこうは、静かにマロの音を聴き切った。

けれど、三味線クラブとしては、まだ何も始まっていないも同じでした。

その空気に、かけるの我慢が限界に近づいていました。

かけるは、一歩前に出ます。

かける「てやんでい、てめえら勝手に盛り上がってんじゃねえ!」

その声には、つむぎとはやりの悔しさを背負った怒りがありました。

ザンヌは、少しもひるみません。

サックスを手にしたまま、涼しい小悪魔の笑みを浮かべます。

ザンヌ「先輩、負け犬は黙って欲しいでザンヌ」

その一言で、かけるの目がさらに鋭くなりました。

かける「すっとこどっこい!」

かけるの声が、音楽室の床を叩くように響きます。

かける「俺たちは正式に学校から使用許可を得てるんでい!」

つむぎは、慌ててかけるを見ました。

はやりも、涙を拭くことを忘れて顔を上げます。

かけるは止まりません。

かける「ガタガタ抜かしやがるとぶっ飛ばすぞ!」

音楽室の空気が、また一気に熱くなりました。

ザンヌの目も細くなります。

ジュラは静かに眉を寄せ、マロも袖の中で笙を抱え直しました。

今度こそ、本当にぶつかる。

そう思った瞬間でした。

低く、よく響く声が、二人の間に入ってきました。

吹奏楽クラブ顧問「かける君もザンヌ君も落ち着きなさい」

吹奏楽クラブ顧問でした。

その声は大きくありません。

けれど、音楽室の隅まで届くような強さがありました。

かけるは、まだ怒った顔のまま先生を見ました。

ザンヌも、少しだけ口を閉じます。

先生は、どちらにも味方するような顔をしていませんでした。

ただ、全員を見ていました。

音楽でぶつかるなら、そこにはルールが必要だ。

そう言う前から、先生の目はそれを語っていました。

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P23|おおいに結構

吹奏楽クラブ顧問の声が、音楽室に静かに響きました。

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大きな声ではありません。

でも、ふしぎと誰もその声を無視できませんでした。

つむぎも、はやりも、かけるも、りゅうこうも、自然と先生の方を見ました。

吹奏楽クラブ顧問「君たちは若い。ゆえに意見が衝突してぶつかり合う事、おおいに結構」

その言葉に、つむぎは少し驚きました。

怒られると思っていたからです。

音楽室で言い合いになったこと。

相手を挑発したこと。

感情が先に出てしまったこと。

先生なら、まずそこを叱るのだと思っていました。

けれど、吹奏楽クラブ顧問は、どちらか一方を責めるのではなく、両方の陣営のあいだに立ちました。

三味線クラブの四人。

ザンヌ、ジュラ、マロの三人。

その真ん中に立つ先生は、まるで指揮者のようでした。

吹奏楽クラブ顧問「向上心をもって、目標を持つ事もおおいに結構」

ザンヌは、サックスを抱えたまま目を細めました。

ジュラは、ホルンを持つ手を少しだけ直します。

マロは、笙を胸元に寄せ、すました顔で先生を見上げていました。

先生の言葉は、今度は三人に向けられます。

吹奏楽クラブ顧問「音楽で気持ちを表現する事もおおいに結構」

音楽で気持ちを表現する。

その言葉に、つむぎは胸の奥が少し震えました。

ザンヌのサックス。

ジュラのホルン。

マロの笙。

どれも、自分たちを打ち負かした音でした。

でも同時に、それぞれがちゃんと気持ちを乗せて鳴らした音でもありました。

先生は、そこで少し目を鋭くしました。

吹奏楽クラブ顧問「しかし三味線クラブはまだ、一度の練習も出来ておらずあまりに不公平」

その一言で、音楽室の空気が変わりました。

つむぎは、はっと顔を上げます。

そうです。

自分たちは、まだ一度もちゃんと練習していません。

三味線を持って、三味線クラブとして音を出す練習さえ、まだ始まっていないのです。

かけるも、腕を組んだまま黙りました。

はやりも、悔しさをこらえながら先生を見ています。

りゅうこうは、静かに目を伏せました。

先生の言葉は厳しかったけれど、そこには公平さがありました。

ただ勝った負けたで終わらせない。

音楽でぶつかるなら、同じ土俵を用意する。

そのための言葉でした。

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P24|基礎三本勝負

吹奏楽クラブ顧問は、音楽室にいる全員を見渡しました。

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つむぎたちも、ザンヌたちも、もう言い返しません。

先生の次の言葉を待っていました。

吹奏楽クラブ顧問「月水金、三味線クラブの音楽室使用を許可し、一ヶ月後、音楽室で基礎三本勝負をしましょう」

基礎三本勝負。

その言葉が、つむぎの中で重く響きました。

一ヶ月後。

今はまだ鳴らせない音を、一ヶ月でどうにかする。

今はまだ何も知らない三味線の基礎を、一ヶ月で身につける。

そういう意味なのだと、すぐにわかりました。

マロが目を丸くしました。

マロ「その勝負、意味あるでおじゃるか?」

その声には、まだ余裕がありました。

つむぎとはやりの音を聞いたあとです。

マロにとっては、一ヶ月でどうにかなるとは思えなかったのでしょう。

先生は、静かに答えました。

吹奏楽クラブ顧問「技術自慢ではなく、基礎を見る勝負です」

技術自慢ではない。

基礎を見る。

その言葉に、つむぎは少しだけ救われるような気がしました。

いきなり上手くなる必要はない。

いきなりザンヌたちみたいに、人に聴かせる音を出せるようにならなくてもいい。

まずは、基礎。

音を出すための入口。

そこを見てもらえる勝負なのです。

けれど、ザンヌはにやりと笑いました。

ザンヌ「面白いザンヌ。基礎すら出来てない初心者にはうってつけザンヌ」

また胸に刺さる言葉でした。

つむぎは、ぐっとこぶしを握りました。

何も言い返せません。

でも、もう下を向くだけではありませんでした。

一ヶ月後。

その言葉が、さっきから何度も頭の中で鳴っています。

一ヶ月後……!

怖い。

でも、逃げたくない。

つむぎの中で、悔しさが少しずつ決意に変わりはじめていました。

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P25|私たちが戦うんだ

勝負の形が決まると、音楽室の空気はさらに引き締まりました。

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吹奏楽クラブ顧問は、今度は対戦形式をはっきり伝えました。

吹奏楽クラブ顧問「かける君は三味線クラブの顧問指導役に徹して、つむぎVSザンヌ、はやりVSジュラ、りゅうこうVSマロで基礎バトルです」

はやり「えっ、かける先輩出ないジャン!?」

はやりが、目をまん丸にしました。

つむぎも同じ気持ちでした。

かけるが出れば、きっと強い。

しゃみよしの娘で、三味線のことをよく知っていて、構えも言葉も堂々としている。

かけるが戦ってくれた方が、ずっと安心できるように思えました。

でも、かけるは当然のように言いました。

かける「オレとあいつらじゃ年齢差もあるし、これは基礎バトル、お前らが勝たなきゃ意味ねえだろ」

その言葉に、はやりは口をつぐみました。

つむぎも、胸の奥を押されたような気がしました。

かけるが代わりに勝つことはできるかもしれない。

でも、それでは三味線クラブが成長したことにはならない。

つむぎが。

はやりが。

りゅうこうが。

自分たちの手で音を出して、基礎を見せなければ意味がないのです。

先生は、さらに続けました。

吹奏楽クラブ顧問「更に経験年数も加味してザンヌ君とジュラ君にはハンデを課します」

ザンヌの眉がぴくりと動きました。

ジュラも、少しだけ不満そうに目を細めます。

でも先生は、表情を変えません。

経験者と初心者が同じ条件で競えば、勝負になりません。

基礎を見るための勝負だからこそ、公平さが必要なのです。

つむぎ、はやり、りゅうこうは並びました。

まだ不安です。

まだ怖いです。

それでも、立つ場所は決まりました。

つむぎは、心の中でつぶやきました。

私たちが……戦うんだ。

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P26|悔しいままで終わりたくない

勝負の約束が決まると、ザンヌはサックスを抱えたまま、音楽室の出口へ歩き出しました。

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そして、扉の近くでふっと振り返ります。

夕陽を背にした黄緑のリボンが、きらりと光りました。

ザンヌ「一ヶ月後が楽しみザンヌ」

その声には、余裕がありました。

自分が負けるとは、少しも思っていない声でした。

ジュラも、ホルンを抱えて涼しい顔で振り返ります。

ジュラ「泣かないで来るジュラ」

はやりが、ぐっと唇を結びました。

さっきまでこぼれそうだった涙を、今度は絶対に見せないようにしているようでした。

最後に、マロが袖をひらりと翻しました。

マロ「せいぜい悪あがきするでおじゃる」

三人は、そのまま音楽室を出ていきました。

南側の廊下へ続く扉の向こうに、三人の背中が遠ざかっていきます。

音楽室には、夕方の光と、まだ消えない悔しさだけが残りました。

つむぎは、三味線を抱えたまま立っていました。

はやりは、悔しそうにこぶしを握っています。

りゅうこうは、静かに三人が去った扉を見ていました。

かけるは、腕を組んだまま何も言いません。

でも、その横顔はいつもよりずっと真剣でした。

つむぎの頭の中には、ザンヌのサックスの音が残っていました。

ジュラのホルンの音も。

マロの笙の響きも。

そして、自分の三味線が鳴らなかった瞬間の感触も。

どれも消えません。

消えてほしくありません。

忘れたら、きっとまた同じところで止まってしまうからです。

つむぎは、心の中で強く思いました。

絶対に……悔しいままで終わりたくない。

その気持ちは、まだ小さな火でした。

でも、確かに胸の奥で燃えはじめていました。

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P27|まず構え!

三人が去ったあと、音楽室にはしばらく沈黙が残りました。

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けれど、かけるはその沈黙を長くは置きませんでした。

かける「よし」

かけるは、ぱん、と手を打つようにして空気を切り替えました。

かける「まず構え!」

その声で、つむぎとはやりは同時に背筋を伸ばします。

つむぎ・はやり「はい!」

つむぎは、三味線を抱え直しました。

けれど、さっきの失敗のせいで、どうしても体が硬くなってしまいます。

背中が丸くなり、肩が上がり、三味線を支える腕にも余計な力が入っていました。

かけるは、すぐにそれを見抜きました。

かける「左腕下がり過ぎ! 目線はちぶくろの高さ!」

つむぎ「目線はちぶくろ!?」

つむぎは、慌てて背筋を伸ばし左腕を目線がちぶくろの高さまで上げます。

かけるは次に、はやりの手元を見ました。

はやりは、気合いだけは十分です。

けれど、気合いが入りすぎて、三味線の胴も、バチも、全部まとめて力で押さえ込もうとしていました。

かける「背中丸い。肩のチカラを抜け! バチ握り潰すな! あちこち見るな視線集中しろ!」

はやり「情報量多いジャン!」

かけるの指導は、江戸っ子そのものでした。

言葉は短い。

でも、見ているところは細かい。

つむぎは、言われたことを一つずつ直そうとしました。

背中を伸ばす。

肩の力を抜く。

三味線を押さえつけない。

たったそれだけのことなのに、思ったよりずっと難しい。

はやりも、さっきまでの悔し涙を忘れたように、必死で構え直していました。

りゅうこうは、二人を静かに見ていました。

その目は、ザンヌたちを見ていたときと同じように、音の入口を探しているようでした。

一ヶ月後の勝負は、もう始まっています。

まずは構え。

三味線クラブの初練習は、いちばん基本の形から始まりました。

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P28|りゅうこうのお手本

かける「見て覚えた方が早い。おい、りゅうこう。構えのお手本になってやってくれ」

“`

かける先輩の声が、夕方の音楽室に響いた。

窓の外では、初夏の緑が西日に照らされている。黒板の前、椅子に腰かけたり立ったりしながら、つむぎたちは三味線を抱えていた。

りゅうこうくんは、いつものように何も言わず、すっと前に出た。

三味線の胴を右のあばらに寄せ、足の付け根と右腕で支える。棹はほんの少し上を向き、目線は天神より少し下、乳袋のあたりに自然と落ちていた。

かける「見よう見まねで構えてみろ。悪いところを俺が正す」

かける先輩が言うと、つむぎはりゅうこうくんの姿勢をじっと見つめた。

胴は、右のあばら。足の付け根。そして右腕の前腕。

三点で支える。

さっきまで、ただ重たく感じていた三味線が、少しだけ体に馴染む気がした。

つむぎ「胴は、右のあばら、足の付け根、右腕の前腕の三点で支える……」

つむぎが小さく繰り返すと、かける先輩はうなずいた。

一方、はやりはガチガチになっていた。

かける「そうじゃねえ! 腕はこう、足はこうだ。何べん言えばわかるんだ」

はやり「初めて聞くジャン! あーだこうだ言われてもわからないジャン!」

涙目のはやりが叫ぶと、音楽室に少しだけ笑いが生まれた。

けれど、つむぎにはわかった。

これは、叱られているのではない。

三味線が鳴る場所を、体で探しているのだ。

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P29|かけるの「初心者」にもわかりやすい三味線基本姿勢 図解

かける先輩は、指導棒を掲げた。

“`

かける「今日は三味線の基本姿勢をしっかり覚えよう!」

言葉で説明されると難しい。

けれど、図で見ると、少しずつ見えてくる。

ここにP29図解画像を挿入
三味線基本姿勢のポイントを、読者と初心者に見せるページ。
P29 かけるの初心者にもわかりやすい三味線基本姿勢 図解
P29|三味線基本姿勢の図解。背すじ、棹の角度、胴の支え方、視線、右腕の位置を確認する。

つむぎとはやりは、図のすみっこで何度も頷いた。

つむぎ「なるほど……!」

はやり「これが基本の姿勢なんだね!」

三味線は、ただ持てば鳴る楽器ではない。

正しく構えることで、初めて音がまっすぐ前に出ていく。

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P30|バチの部位と持ち方 図解

次に、かける先輩はバチを掲げた。

“`

かける「まずは、バチの部位を覚えろ!」

撥先、角、開き、握り、才尻、柄。

名前だけ聞くと難しいけれど、形を見れば意味がわかる。

ここにP30図解画像を挿入
バチの部位と、手の甲側・手の平側から見た持ち方を画像で読ませるページ。
P30 バチの部位と持ち方 図解
P30|バチの部位と正しい持ち方。細かな説明より、まずは形で覚える。

かける「説明は割愛する。見て覚えろ!」

かける先輩らしい乱暴な説明だった。

でも、つむぎには少しだけわかった。

バチは、ただ強く握るものではない。

音を出すために、手の中で支え、向きを決めるものなのだ。

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P31|打ち込みの基本 図解

かける「今日は、打ち込みの基本を覚えよう!」

“`

かける先輩の声に、つむぎとはやりは背筋を伸ばした。

津軽三味線の打ち込みには、前後バチがある。

けれど、初心者が最初に目指すのは、まず真ん中をしっかり打つこと。

ここにP31図解画像を挿入
バチの角度、手首の角度、当てる場所を視覚で理解させるページ。
P31 打ち込みの基本 図解
P31|打ち込みの基本。角度、手首、当てる場所を確認する。

かける「糸を弾くより、まずは撥皮をしっかり打つイメージだ!」

つむぎは、バチを構えながら息を整えた。

音を出す前に、体の形を整える。

それだけで、三味線の前に立つ気持ちが変わっていった。

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P32|打つ・スクイ・ハジク 図解

三味線には、いろいろな音の出し方がある。

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打つ。

スクイ。

ハジク。

かける先輩は、ひとつずつ動きを見せながら説明した。

ここにP32図解画像を挿入
三味線の基本奏法「打つ」「スクイ」「ハジク」を、画像中心で読ませるページ。
P32 三味線の基本奏法 打つ スクイ ハジク 図解
P32|三味線の基本奏法。打つ・スクイ・ハジクの違いを図で確認する。

はやりは、目を丸くした。

はやり「同じ三味線なのに、こんなに音の出し方があるジャン……!」

りゅうこうくんは、静かにうなずいた。

基本は、地味だ。

でも、その地味な基本の中に、音を変える入口があった。

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P33|毎日、基本ばっかり

それから、私たちは毎日、練習を続けた。

“`

月・水・金は、放課後の音楽室。

夕方の光が差し込む中、かける先輩の指導と、りゅうこうくんのお手本を見ながら、つむぎとはやりは三味線を構えた。

火・木・土日は、りゅうこうくんの稽古場。

畳のにおいと、三味線の音が響く長屋の空間で、同じ基本を何度も繰り返した。

休み時間も。

家に帰ってからも。

つむぎとはやりは、三味線がなくてもできることを探した。

姿勢を確認する。

バチの握りを思い出す。

肩の力を抜く。

視線を集中する。

毎日、毎日、基本ばかり。

ついに、はやりが声を上げた。

はやり「毎日基本ばっかりで、そろそろ大技やりたいジャン!」

その瞬間、かける先輩の眉がぴくりと動いた。

かける「てやんでい! 基本をすっ飛ばして大技なんざ10年早いんだよ!」

はやり「シャビ!! 10年も時間無いジャン。勝負まであと10日切ったジャン!」

はやりは涙目で訴えた。

つむぎも、胸の奥で同じ焦りを感じていた。

このままで、一ヶ月後の勝負に間に合うのだろうか。

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P34|チリたらの練習

かける先輩は、腕を組んだまましばらく黙っていた。

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そして、ふっと口元をゆるめた。

かける「よし! そんなに言うなら、今日からチリたらの練習だ」

つむぎ・はやり「チリたら……?」

つむぎとはやりの声が重なった。

かける先輩は、黒板の前に立つと、指導棒で三味線の動きを示した。

かける「チリたらは、打つ、スクイ、ハジク。この三つの技を組み合わせた代表的な技だ」

りゅうこうくんが、静かに三味線を構える。

かける先輩の説明に合わせて、バチが動いた。

打つ。

スクイ。

ハジク。

音が連なった瞬間、つむぎの胸が高鳴った。

ただの基本だと思っていた動きが、つながると音楽になる。

かける「三味線の技の中でも、一番と言っても過言でない難易度高い技だが、10日で叩き込む。覚悟しやがれ!」

はやり「合点承知ジャン!!!」

はやりは敬礼しながら、片目をつぶった。

つむぎも、ぎゅっと拳を握った。

怖い。

でも、やってみたい。

今度こそ、自分の音で返したい。

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P35|しゃみり。

それから、かける先輩の指導のもとで、基本とチリたらの練習を並行して続けた。

“`

放課後の音楽室。

夕方の光が、床に長い影を落としている。

みんなが少し休んでいる間、つむぎはひとり、三味線を抱えて呼吸を整えた。

大きな音を出そうとすると、体に力が入る。

力を抜こうとすると、音がかすれる。

そのちょうど真ん中を、つむぎは探していた。

そっとバチを当てる。

つむぎ「しゃみ……」

小さな音が、音楽室に落ちた。

つむぎは、もう一度だけ、指先とバチの重さを確かめた。

つむぎ「……り。」

今度は、小さくても粒のそろった音が鳴った。

派手ではない。

大きくもない。

けれど、その音は逃げなかった。

りゅうこうくんが、少しだけ目を上げた。

りゅうこう「……今の、いい」

かける先輩も、親指を立てた。

かける「小さい音色の方が、バチのコントロールが難しい。だが今のは、粒の揃った音色が確かに響いたぜ」

つむぎは、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

シャミる! と叫べるほど、華やかではない。

でも、確かに触れた。

自分の中にある、小さな音に。

その音は、つむぎの中で静かに名前を持った。

しゃみり。

“`
P36|しゃみり。という音

はやり「繊細でキレイな響き。シャミり。ジャン?」

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はやりが、ぱっと顔を上げて言った。

音楽室の空気が、ほんの少しだけ変わった。

大きな音ではなかった。

派手な技でもなかった。

でも、つむぎの出した小さな音は、確かにそこに残っていた。

つむぎ「うん、華やかにシャミる! まではいかないけど……小さく、ちゃんと触れた音」

つむぎは、自分の指先を見つめながら言った。

三味線に触れる。

音に触れる。

自分の中にある、まだ小さな気持ちに触れる。

その全部が、今の音に混ざっていた気がした。

かける先輩が、にかっと笑った。

かける「てやんでい! シャミる! シャミれ! シャミろう! シャミらん! 五段活用の中じゃ、シャミり。が一番難しい。てえしたもんだよ」

はやり「今回の目玉はシャミり。で決まりジャン!」

はやりが勢いよく拳を上げた。

つむぎ、はやり、りゅうこう、かける先輩。

四人は、音楽室の真ん中で輪になった。

まだ勝てるかどうかは、わからない。

ザンヌたちとの差は、大きい。

それでも、もう最初の頃とは違う。

つむぎは、自分の中に生まれた小さな音を、ぎゅっと胸にしまった。

そして、あっという間に五月は終わり、六月がやってきた。

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P37|再戦当日

そして、再戦当日がやってきた。

“`

六月の放課後。

音楽室の窓の外では、初夏の緑が夕方の光を受けて揺れている。

衣替えをした四人は、いつもより少しだけ身軽に見えた。

けれど、音楽室に入った瞬間、空気はぴんと張りつめた。

ザンヌ、ジュラ、マロ。

三人は、すでに音楽室で待っていた。

ザンヌが、にやりと笑う。

ザンヌ「服だけ涼しくなったザンヌ?」

はやり「中身も成長したジャン!」

はやりが、一歩前に出た。

つむぎは、三味線を抱え直した。

一ヶ月前の自分なら、ここで目をそらしていたかもしれない。

でも今は違う。

怖い気持ちはある。

悔しかった記憶もある。

それでも、逃げたくない。

吹奏楽クラブ顧問が、両チームの間に立った。

吹奏楽クラブ顧問「これより再戦を行います」

黒いスーツに赤いマフラー。

季節は初夏なのに、その姿は一切変わっていない。

けれど、その声だけで音楽室の空気が整った。

吹奏楽クラブ顧問「三味線クラブ側は練習期間一ヶ月という短期間を考慮して、ジュラ君、ザンヌ君にはハンディとして、自分の楽器ではない練習用、さらに目隠しをして演奏して貰います」

一瞬、音楽室がざわめいた。

ザンヌは余裕の笑みを浮かべたまま。

ジュラは静かにうなずき。

マロは、扇のように袖を広げてすました顔をした。

勝負が、始まる。

“`
P38|一音安定勝負

吹奏楽クラブ顧問「一本目は、はやり対ジュラ。一音安定勝負」

“`

吹奏楽クラブ顧問の声が、音楽室に響いた。

はやりは、大きく息を吸った。

負けたくない。

一ヶ月前、ジュラの音はあまりにも澄んでいた。

まっすぐで、揺れなくて、音楽室の空気そのものを変えてしまうような音だった。

はやりは、両手で三味線を構えた。

背中を伸ばす。

肩の力を抜く。

視線を集中する。

何度も、何度も、かける先輩に言われたことを思い出す。

はやり「基礎練習の成果を出し切るジャン!」

はやりは、バチをそっと構えた。

音楽室の空気が静まる。

つむぎは、胸の前で両手を握りしめた。

りゅうこうくんは、黙ってはやりを見ている。

かける先輩は、腕を組んだまま、真剣な目をしていた。

はやりのバチが、撥皮に当たる。

音が鳴った。

一ヶ月前より、ずっとまっすぐな音だった。

まだ少し揺れている。

でも、確かに前へ出ている。

はやりの音だった。

つむぎは思わず息をのんだ。

はやりは、ちゃんと進んでいる。

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P39|負けたけど、鳴っていた

次に、ジュラが黒い布で目隠しをした。

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手にしているのは、自分のホルンではない。

練習用のホルン。

それでも、ジュラの表情はほとんど変わらなかった。

ジュラ「見えなくても、楽器が変わっても同じことジュラ」

ジュラは静かに息を吸い、ホルンを構えた。

音が鳴った瞬間、音楽室の空気がすっと整った。

派手ではない。

けれど、揺れない。

芯のある、安定した音。

はやりの音も、確かに成長していた。

でも、ジュラの音はまだ遠かった。

吹奏楽クラブ顧問が、ゆっくりと口を開いた。

吹奏楽クラブ顧問「一本目、勝者、ジュラ」

はやりは、悔しそうに唇を噛んだ。

はやり「また負けたジャン……」

その声は、小さく震えていた。

でも、涙をこぼす前に、はやりは顔を上げた。

ジュラが、ほんの少しだけ目を細める。

ジュラ「でも……前より鳴ってたジュラ。少しだけ認めてあげるジュラ」

はやりの目が、ぱっと強くなった。

はやり「次は負けないジャン!」

負けた。

でも、何も残らない負けではなかった。

はやりの一音は、確かに前より鳴っていた。

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P40|二本目、つむぎ対ザンヌ

吹奏楽クラブ顧問「二本目。つむぎ対ザンヌ。フレーズ勝負」

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吹奏楽クラブ顧問が告げると、つむぎの胸がどくんと鳴った。

ザンヌが、余裕の笑みを浮かべる。

ザンヌ「泣かずに来たザンヌね」

その言葉に、一ヶ月前の悔しさがよみがえった。

音が鳴らなかった。

迷子ザンヌ、と笑われた。

悔しくて、恥ずかしくて、逃げ出したくなった。

でも、今のつむぎは一人ではない。

つむぎ「私にはシャミる仲間がついてる。もう……逃げません」

声は少し震えていた。

けれど、つむぎはザンヌの目を見た。

ザンヌは黒い布で目を覆い、練習用のサックスを構える。

ザンヌ「格の違いを思い知るザンヌ」

次の瞬間、音楽室いっぱいに、きらびやかな音が広がった。

目隠しをしているとは思えない。

自分の楽器ではないとは思えない。

ザンヌのフレーズは、華やかで、軽やかで、音の波が幾重にも重なっていくようだった。

つむぎは、その音に圧倒されながらも、三味線を抱きしめた。

華がなくてもいい。

私の、私たちの音色を。

今度は、逃げない。

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P41|華がなくてもいい。私たちの音色を

ザンヌのフレーズは、たしかに華やかだった。

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目隠しをしていても、自分の楽器ではなくても、音は迷わない。

軽やかで、きらびやかで、音楽室の空気を一瞬で自分のものにしてしまう。

つむぎは、その音を真正面から受け止めた。

一ヶ月前なら、ここで心が折れていたかもしれない。

けれど、今は違う。

つむぎは、三味線を抱え直した。

華がなくてもいい。

私の、私たちの音色を。

そう思いながら、バチを静かに構える。

大きく鳴らそうとしない。

強く叩こうとしない。

かける先輩に言われたことを、一つずつ思い出す。

背中。

肩。

腕。

バチの重さ。

そして、三味線の中にある音の入口。

しゃみ……り。

小さな音が、音楽室に落ちた。

派手ではない。

ザンヌのサックスのように、きらびやかでもない。

けれど、その音は逃げなかった。

一ヶ月前のように、迷子にはならなかった。

つむぎの音は、細くても確かに前へ届いた。

吹奏楽クラブ顧問は、目を閉じるようにして、その余韻を聴いていた。

そして、静かに口を開いた。

吹奏楽クラブ顧問「勝者、ザンヌ」

その言葉に、つむぎの胸が一瞬だけ沈んだ。

負けた。

やっぱり、まだ届かなかった。

けれど、ザンヌはそこで手を上げた。

ザンヌ「……待つザンヌ」

音楽室の視線が、いっせいにザンヌへ向いた。

ザンヌは、サックスを抱えたまま、つむぎを見つめていた。

ザンヌ「このままストレート勝ちで終わるには、面白くないザンヌ」

その声は、いつものように挑発的だった。

けれど、つむぎには、その奥に少しだけ違う響きがあるように聞こえた。

ザンヌは、つむぎの音を聴いた。

そして、ただ笑い飛ばさなかった。

それだけで、つむぎの胸に小さな火が灯った。

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P42|三本目。りゅうこうVSマロ

音楽室の空気が、また変わった。

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ザンヌが勝ちを止めたことで、勝負はまだ終わらなかった。

吹奏楽クラブ顧問は、全員を見渡してから、三本目を告げた。

吹奏楽クラブ顧問「三本目。りゅうこうVSマロ」

りゅうこうは、静かに前へ出た。

一方、マロは腕を組み、赤い丸いほっぺを少し上げて笑っていた。

マロ「マロが負けることはないでおじゃる」

その声には、自信があった。

笙の音は、たしかに特別だった。

まっすぐ飛んでくる音ではなく、空間そのものに広がっていく音。

古い時代の空気を、音楽室に連れてくるような音。

つむぎも、はやりも、その音の力を知っている。

けれど、りゅうこうは動じなかった。

三味線を構え、目線を落とし、ただ静かに待っている。

マロは、ゆっくりと笙を構えた。

音楽室が、しんと静まる。

そして、マロの息が笙へ入った。

ふわりと、音が広がる。

金色の糸のような響きが、夕方の音楽室を満たしていく。

雅で、厳かで、余韻が深い。

つむぎは、思わず息を止めた。

はやりも、さっきまでの悔しさを忘れたように、その音を聴いていた。

マロは、勝ちを確信した顔で音を終えた。

しかし、りゅうこうは、まだ静かだった。

りゅうこうの目は、マロの音の奥を見ていた。

りゅうこう「……みやび。余韻がある」

その一言に、マロの表情がわずかに動いた。

りゅうこうは、ただ聴いていただけではなかった。

マロの音の芯を、すでに掴んでいた。

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P43|みやびがえし

りゅうこうは、三味線を構えた。

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音楽室の空気が、さらに静かになる。

つむぎは、りゅうこうの横顔を見つめた。

りゅうこうは、派手に動かない。

大きく構えない。

でも、その目は、音を逃がさなかった。

マロの笙が残した余韻。

間。

呼吸。

古い日本の雅。

その全部を、りゅうこうは三味線の中へ入れようとしていた。

バチが、静かに動く。

キン。

その一音が鳴った瞬間、マロの顔色が変わった。

ただ真似をした音ではない。

笙の余韻を、三味線の音で返したような響き。

空間に残っていたマロの音が、りゅうこうの三味線によって、別の形で立ち上がった。

マロ「ばかな……みやびに寸分違わぬフレーズで返してきたでおじゃるか~~~!!」

マロの声が、音楽室に大きく響いた。

ザンヌも、ジュラも、思わずりゅうこうを見る。

つむぎは胸の奥が震えた。

はやりは、ぱっと顔を輝かせた。

りゅうこうは、いつものように表情を変えない。

ただ、短く言った。

りゅうこう「みやびがえし」

その言葉は静かだった。

でも、音楽室の真ん中に、はっきりと立っていた。

吹奏楽クラブ顧問が、りゅうこうの音の余韻を聴き終える。

そして、まっすぐに告げた。

吹奏楽クラブ顧問「勝者、りゅうこう」

一瞬の静寂。

そして、はやりが飛び跳ねた。

はやり「シャビ! カッコいいジャン!」

マロ「お、おじゃる!?」

マロは、笙を抱えたまま固まっていた。

りゅうこうは、ただ静かに三味線を下ろした。

勝ち誇ることもない。

自慢することもない。

ただ、音で返した。

それが、りゅうこうの勝ち方だった。

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P44|この勝負はドローです

りゅうこうの勝利で、音楽室の空気は大きく揺れた。

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はやりは、まだ興奮したまま拳を握っている。

つむぎも、胸の奥が熱くなっていた。

ザンヌは、サックスを抱えたまま、しばらく黙っていた。

ジュラは、ホルンを下ろして静かに息を吐く。

マロは、まだ信じられないという顔でりゅうこうを見ていた。

吹奏楽クラブ顧問は、全員を見渡した。

吹奏楽クラブ顧問「1対1の1、1引き分けで、この勝負はドローです。引き続き音楽室でお互い練習に励む事。以上」

その言葉で、勝負は終わった。

負けでもない。

勝ちでもない。

ドロー。

けれど、つむぎには、それがただの引き分けには思えなかった。

はやりはジュラに負けた。

つむぎはザンヌに勝てなかった。

でも、りゅうこうが勝った。

そして、ザンヌはつむぎの音を、ただ笑い飛ばさなかった。

それだけで、一ヶ月前とはまるで違っていた。

ジュラが、はやりを見た。

ジュラ「返り討ちジュラ」

はやり「次は負けんジャン!!」

そのやり取りに、少しだけ火花が散った。

けれど、一ヶ月前のような一方的な悔しさではない。

次へ向かうための火花だった。

マロは、りゅうこうを横目で見て、口をとがらせた。

マロ「次は負けることはないでおじゃる」

りゅうこう「何回やっても同じ」

りゅうこうの短い言葉に、マロの頬がさらに赤くなった。

ザンヌは、つむぎの前に立った。

その表情は、いつもの小悪魔の笑みだった。

けれど、声は少しだけ違っていた。

ザンヌ「ちょっぴり面白かったザンヌ」

つむぎ「また胸をお借りします」

つむぎは、まっすぐに頭を下げた。

ザンヌは一瞬だけ目を丸くしたあと、ふいっと顔をそらした。

三人は、音楽室を出ていった。

夕方の光が、三人の背中を廊下へ押し出していく。

音楽室に残ったのは、勝敗だけではなかった。

もっと知りたいという気持ち。

もっと鳴らしたいという気持ち。

そして、次はもっと前へ進みたいという気持ちだった。

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P45|次回予告|よされ。

ザンヌたちが去ったあと、音楽室は静かになった。

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窓の外では、夕陽が校庭を金色に染めている。

つむぎ、はやり、りゅうこう、かける。

四人は、しばらく言葉もなく、その景色を見ていた。

一ヶ月前。

つむぎは、音を鳴らせなかった。

はやりは、勢いだけで突っ込んで負けた。

りゅうこうは、ただ静かに聴いていた。

でも、今は違う。

一ヶ月ぶんの基本練習。

一ヶ月ぶんの悔しさ。

一ヶ月ぶんの音が、確かにここに残っていた。

つむぎ「もっと知りたくなった」

つむぎは、静かに言った。

三味線の音。

構え。

バチ。

チリたら。

そして、自分の中から出てきた小さな音、しゃみり。

知れば知るほど、まだ知らないものが増えていく。

はやり「三味線、奥が深すぎジャン」

はやりは、悔しそうで、でも少し楽しそうだった。

りゅうこうは、窓の外を見たまま、ぽつりと言った。

りゅうこう「……よされ」

つむぎとはやりが、同時に振り返る。

つむぎ「よされ?」

かける「お前ら、よく頑張ったぞ!」

かけるは、珍しくまっすぐに褒めた。

けれど、その目はもう次を見ていた。

三味線には、まだまだ知らない音がある。

津軽には、受け継がれてきた民謡がある。

じょんから。

よされ。

小原。

あいや。

津軽甚句。

つむぎの胸が、また高鳴った。

三味線クラブは、やっと基本の入口に立ったばかりだ。

次は、音のふるさとを知る番だ。

次回|第六話「よされ。」
津軽五大民謡を訪ねて。
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