8話登場人物紹介
![]() つむぎ主人公三味線クラブで三味線の修業中 | ![]() はやり つむぎの大親友。ムードメーカー | ![]() りゅうこう 冷静 無口、祖母は三味線弾き | ![]() かける 江戸っ子 男勝り喧嘩早が情に厚い |
![]() かける兄 15歳、12歳で家を飛び出し三味線ひとつで世界中を旅している。 | ![]() アコ 15歳 SNSで話題沸騰の弾き語りシンガー。学校には行かずストリートライブで | ![]() ブル 15歳 アコの相棒 ストリートのBluesハープ奏者。 | ![]() トンデモプロダクション 4話で登場した三悪トリオ。どういうわけだかトンデモグループはすみみだ町では有数の企業 |







































P0|前回までのあらすじ
第8話へつながる、これまでのシャミる!
すみみだ小学校四年生のつむぎは、大親友のはやり、静かな三味線男子りゅうこう、老舗三味線店の娘かけると出会い、三味線クラブを立ち上げた。
ライバルとの稽古場バトル、伝説の三味線弾きとの出会い、和楽器仲間とのセッションを通して、四人は少しずつ三味線の世界を広げていった。
そして前回、津軽五大民謡の奥深さに触れた四人は、三味線には「曲を弾く」だけではなく、「唄と一緒に弾く」世界があることを知る。
そこへ飛び込んできたのは、かけるの兄がすみみだ駅前でストリートライブをするという情報だった。
三味線の唄弾きを研究する絶好のチャンス。けれど、かけるだけは少し不機嫌そうな顔をしていた。
P1|かける兄、駅前ライブの知らせ
土曜日の夕方、物語はすみみだ駅前へ
七月の土曜日。夕焼けに染まり始めたすみみだの街に、夏の熱気が残っていた。
つむぎたちは、かけるから聞いた情報を頼りに、すみみだ駅前へ向かおうとしていた。
つむぎかける先輩のお兄さん、今日、駅前でストリートライブをするんですよね。
はやり唄弾き研究の大チャンスジャン!
りゅうこう実演を見るのが、一番早い。
かけるてやんでい。勝手に研究材料にするんじゃねえ。
そう言いながらも、かけるの歩く足は止まらない。嫌そうな顔の奥に、ほんの少しだけ期待がにじんでいた。
P2|三味線の唄弾きと曲弾き
曲弾きだけではない、もう一つの三味線
三味線には、技巧的に音を鳴らす曲弾きの世界がある。けれど、民謡とともに育ってきた三味線には、唄を支え、唄と呼吸を合わせる唄弾きの世界もある。
つむぎ唄いながら弾くって、すごく難しそうです。
かける難しいに決まってんだろ。手も声も、どっちも逃げられねえ。
はやりでも、できたら絶対かっこいいジャン!
りゅうこう唄と弦の呼吸。そこを見る。
四人の目的は決まった。かけるの兄のライブを見て、三味線の唄弾きの秘密を探ることだった。
P3|ついてくるな、ついてく
不服そうなかけると、妙に楽しそうな三人
すみみだ駅前へ向かう商店街。朝顔の鉢が店先に並び、夕焼けの光がアーケードの端を赤く染めていた。
かけるてめえらは、ついてこなくていい。
りゅうこうついてく。
はやり珍しく、りゅうこう積極的ジャン!?
つむぎあれ? そういえば、りゅうこう、三味線は?
はやりかわりに、ヘンテコな箱を抱えてるジャン?
りゅうこうは無表情のまま、抱えていた木の箱を少しだけ持ち直した。
P4|りゅうこう、カフォンを出す
足りない音を見抜く静かな男子
りゅうこうカフォンだ。打楽器。
りゅうこう足りなそうだったので、持ってきた。
つむぎは目を丸くした。三味線のことばかり考えていたけれど、たしかに路上ライブにはリズムを支える音も必要になる。
つむぎそういえば、打楽器奏者いなかった。よく見てるね。
はやりくれぐれも足引っ張るなよジャン。
りゅうこうその言葉、そのまま返す。
かけるてやんでい! こちとら身内に合わせるのが恥ずかしいのに、勝手に盛り上がってんじゃねえ。
かけるはそっぽを向いた。けれど、その声には本気で怒っているというより、照れ隠しの色が強かった。
P5|自慢の仲間、自慢の兄妹ジャン!
かけるの照れを、三人が少しだけほどく
つむぎ私たちが、かける先輩の仲間として認められるかは置いといて……
つむぎお兄さん、とてもワイルドでかっこいいです。私だったら、ちょっと鼻が高いかも。
はやりシャビ!?
はやり自慢の仲間、自慢の兄妹ジャン!
かけるなんだよ、そのシャビって。
はやりシャミるびっくり、略してシャビ!
はやりは胸を張って言った。つむぎは苦笑いし、りゅうこうはいつも通りの無表情だった。
かけるぐ……こいつら、口先まで成長しやがって。
そう言いながら、かけるの頬はほんの少し赤くなっていた。
P6|アコ、SNSで話題沸騰
駅前ライブに集まる、もう一人のカリスマ
つむぎはスマホのメモを確認しながら、今回のライブに参加するもう一人の名前を口にした。
つむぎアコさんって、いまSNSで話題沸騰なんだよね。
つむぎフォロワー100万人超え。動画の再生回数も、1億回を超えてるって。
はやりい、1億!?
はやりの声が商店街に響く。通りすがりの人が振り返りそうになるほどの勢いだった。
つむぎでも自由主義で、トンデモプロダクションの法外な契約金も断ったらしいよ。
はやりトンデモプロダクション? どこかで聞いたことある、三流プロダクションジャン?
かけるの表情が、ほんの少しだけ険しくなった。どうやら、その名前には嫌な予感があるらしい。
P7|かける兄補足と第4話CM
かける兄を知るなら、第4話へ
ここで少しだけ、かけるの兄について補足しておきたい。
つむぎかける先輩のお兄さんは、シャミる第4話で登場しています。
かける老舗三味線店主のオヤジと大喧嘩して、今は三味線片手に放浪の旅ってわけだ。
ぶっきらぼうに言いながらも、かけるの声にはどこか誇らしさが混じっていた。
シャミる! 第4話 CM
はやり詳しくは、第4話を読むジャン!
りゅうこうアニメ版も見逃すな。
かけるの兄がなぜ家を出たのか。かけるがなぜ三味線に強くこだわるのか。その理由は、第4話の中にある。
そして今、その兄がすみみだ駅前で唄弾きのライブをする。かけるにとっても、つむぎたちにとっても、ただの見学では終わらない夜が始まろうとしていた。
P8|人聞き悪いザンス
商店街の角から、あの三人が現れる
はやりが「三流プロダクションジャン?」と言った、その直後だった。
バッ!
商店街の角の看板の陰から、黄緑色の夏社服を着た細身の男が、芝居がかったポーズで飛び出した。
ザンス人聞き悪いザンス!
ズラそうズラ!
続いて、水色系の夏社服を着た筋肉質の男が胸を張る。その奥には、黒と赤の夏社服をまとったマリが、優雅に立っていた。
はやりどっかで見た事あると思ったら、第4話で登場したトンデモ商事の二人組ジャン!
ズラ今日はボスも一緒ズラ。
ザンスボスはトンデモグループの会長ザンス!
つむぎトンデモグループは、どういうわけだか、すみみだ有数の企業なんだよね。
かけるそして第5話で登場した、ザンヌがザンス、ジュラがズラ、マロがマリの親ってわけだ。
りゅうこうシャミる漫画で検索。
りゅうこうの静かな一言に、つむぎとはやりが小さくうなずいた。
P9|世界一の高待遇
高待遇の中身は、全部社長専用だった
マリは、夕焼けの光を背に、扇子のように手を添えて微笑んだ。
マリ我がトンデモプロダクションは、世界一の高待遇でしてよ。
ズラ所属アーティストは365日24時間フル稼働! 滋養強壮! 肉体強化ズラ!
ザンス社長専用トレーニングルーム! 社長専用お迎えカー! 社長専用オフィスビル! 社長専用五つ星シェフフルコース!
ザンスは指を立て、まるで世界の秘密を語るかのように胸を張った。
マリすべては、我が社の発展のためですわ。
かけるてやんでい。アーティストはブラック労働。高待遇は全部社長専用じゃねえか。
はやりそれ、高待遇っていうより、社長の豪遊ジャン。
マリはまったく悪びれない。むしろ、かけるのツッコミを褒め言葉のように受け止めていた。
P10|この世は私のためにある
マリ会長、価値観が強すぎる
マリお嬢さん。この世は、わが社のためにあるのよ。
マリの眼鏡が、夕焼けの光を受けてきらりと光った。
マリわからないなんて、ナンセンスですことよ。
はやり所属アーティストは、いるジャン?
その素朴な質問に、ザンスとズラの動きが一瞬だけ止まった。
ザンスもちろんザンス!
ズラいるズラ!
マリ、ザンス、ズラの三人は、なぜか同時に並び、堂々と胸を張った。
マリここに、三名。
かけるほかにはいねえんだな。要するに。
りゅうこう会社というより、自主制作ユニット。
つむぎは苦笑いし、はやりは「やっぱり三流の香りがするジャン」と小さくつぶやいた。
P11|トンデモ漫談、開幕
マリの命令で、かけるがなぜか三味線伴奏に
商店街の小さな空きスペースに、いつの間にかトンデモプロダクション特設ステージのような空気が生まれていた。
マリさあ、お笑いも超一流だと、見せておあげなさい。
ザンスとズラは、漫談師のように並んで立つ。マリは満足げにうなずき、ふいにかけるの方を向いた。
マリさあさあ、あなたは突っ立ってないで、三味線伴奏ですことよ。
かけるてやんでい! なんで俺が伴奏するんだよ。
マリあなたも、わが社の役に立てるなんて光栄ですことよ。
かけるてやんでい。まっぴらごめんでい。
そう言いながらも、流れに押されてかけるは三味線を構えさせられてしまった。
はやりかける先輩、押し切られてるジャン。
つむぎでも、伴奏が入ると本当に始まりそう……。
P12|となりの家にヘイができたズラ
トンデモ漫談、本編と即オチ
かけるの三味線が、しぶしぶ小さく鳴る。その音に合わせて、ズラが満面の笑みで一歩前へ出た。
ズラとなりの家に、ヘイができたズラ!
ザンスへえ~~、カッコイイ~~ザンス!
しーん……
一瞬、商店街の空気が止まった。つむぎはどう反応していいかわからず、はやりは半笑いのまま固まった。
かける意味わからん。座布団マイナスでい!
マリお~~ほっほっほ! お笑いも超一流!
はやり三流の香りが、すごいジャン。
りゅうこう香りだけじゃない。成分も三流。
ザンスとズラは、なぜか満足げにドヤ顔をしている。マリだけは本気で拍手を送っていた。
P13|トンデモンダンス①
歌とDANCEも超一流らしい
漫談の空気が冷え切ったことなど、マリには関係なかった。彼女は高らかに片手を上げた。
マリそして、歌とDANCEも超一流!
マリさあ、ミュージック、カモン!
かけるてやんでい! 誰がてめえらの伴奏やるもんかい!
ところが、りゅうこうは無表情のままカフォンを下ろし、静かに手を置いた。
ズラミュージックカモンだズラ。
りゅうこう逆らうの、面倒くさい。
タン、タチッキ。タン、タチッキ。
かけるは目をむいた。りゅうこうのカフォンに合わせ、マリ、ザンス、ズラがじわじわと踊り出す。
かけるてやんでい。てめえら、従ってんじゃねえよ。
はやりちょっとだけリズムがいいのが腹立つジャン。
P14|トンデモンダンス②
恥ずかしいおとなジャン!
マリをセンターに、ザンスとズラが左右で大げさに踊る。かけるの三味線とりゅうこうのカフォンが、なぜか妙に合ってしまっていた。
マリ世界は全部、私のステージ!
トントントンデモ〜ン♪
マリトントントンデモ〜ン♪
ザンス・ズラトトト、トントン、トンデモ〜ン♪
三人は最後に、まるで国民的アイドルユニットのような決めポーズを作った。
マリ・ザンス・ズラ勝利のポ~~~~~~~ズ!
かけるは心底嫌そうな顔で三味線を抱え、りゅうこうは平然とカフォンを刻んでいる。
はやり恥ずかしいおとなジャン!
つむぎでも、なぜか子どもたちが見てる……。
かける見なくていい。目が悪くなる。
P15|アホはほっといて行こう
トンデモ三人を放置して、駅前ライブ本編へ
マリは胸を張り、ザンスとズラはまだポーズを決めていた。
マリ所属アーティストは、CMでも大活躍中のマリ、ザンス、ズラの三名でしてよ。
りゅうこう潰れないのが、不思議だ。
その横で、マリたちは再び我を忘れて歌い踊り始めた。通りがかった小さな子どもが、母親の袖を引く。
小さな子どもおかあさん、変なおとながいる。
母親指さすんじゃありません。
かけるは三味線を持ち直し、完全に見切りをつけた顔で駅前の方を向いた。
かけるこんなプロダクション、アコねえやアニキが入ることは絶対ねえだろうな。
かけるアホはほっといて、行こう。
はやり賛成ジャン!
四人は、まだ踊り続けるトンデモ三人を背に、すみみだ駅前広場へ向かって歩き出した。
その先からは、すでに大きな拍手と、弦の鳴る音が聞こえていた。
P16|すごいひとだかり
すみみだ駅前広場、ライブ本編へ
トンデモ三人を背に、つむぎたちは商店街を抜け、すみみだ駅前広場へたどり着いた。
駅ビルの明かりが夕焼けに混ざり、広場の一角だけが小さなステージのように熱を帯びている。観客の後ろ姿が幾重にも重なり、その向こうから弦の音が聞こえてきた。
つむぎすごい人だかり……!
はやりもう始まってるジャン!
りゅうこう音、こっち。
りゅうこうがカフォンを抱えたまま、静かに音のする方を示す。
人垣の向こうには、肩掛け三味線を構えたかける兄、アコースティックギターを抱えたアコ、そしてブルースハープを構えたブルの姿があった。
かける……アニキだ。1年ぶりの。
かけるの声は小さかった。けれど、その横顔は、いつもの強がりだけでは隠しきれない緊張を帯びていた。
P17|ソーラン節ブルース 開始
伝統を、東西フュージョンで鳴らす
澄美田駅前の駅ビルを背に、アコがギターの弦へ指を置いた。夕焼けから宵へ向かう光が、ネオンのように彼女を照らす。
アコ今日は、伝統を東西フュージョンで鳴らすよ。
チャラン……
ヤーレンソーラン♪
ソランソーラン♪ ソーランソーラン♪
ギターの低い響きに、ブルのハープが細くうねる。そこへ、かける兄の三味線が歯切れよく重なった。
かける兄ハイ、手拍子、掛け声チョーだい。
ハイ! ハイ!
観客の手拍子が駅前広場に広がる。つむぎ、はやり、りゅうこうも自然と手を叩き始めた。
かける音が一つになった。
かけるは、思わずそうつぶやいた。三味線、ギター、ハープ、手拍子。そのどれもが別々なのに、一つの流れになっていた。
P18|ソーラン節ブルース 展開
ブルースと民謡が融合する
ブルがブルースハープを口元へ運ぶ。息が音になり、音が波のように駅前広場をなでていく。
フゥー……ワァウ……
沖のカモメに潮時問えば♪
わたしゃ起つ鳥、波に聞けチョイ!
アコの歌は、民謡の節回しを残しながら、どこか遠い国の夜道を思わせるようなブルースの色をまとっていた。
かける兄ハードッコイショ! ドッコイショ!
ドッコイショ! ドッコイショ!
つむぎ上手く言えないけど、世界が一つになってる。
はやりかっこいいジャン……!
かけるブルースと民謡が融合してやがる。
かけるは目をそらせなかった。唄が入ることで、三味線の音がただの伴奏ではなく、声と一緒に呼吸しているように感じられた。
りゅうこう唄の間に、弦が入る。弦の後に、声が返る。
りゅうこうの分析に、つむぎは小さくうなずいた。
P19|ソーラン節ブルース 締め
唄が入ると、三味線の鳴り方が変わる
曲はラストへ向かって一気に熱を上げた。アコのギター、ブルのハープ、かける兄の三味線が、同じ波の上で大きく跳ねる。
ソーラン! ソーラン!
ソーラン! ソーラン!
ワァァァ! パチパチパチ!
観客の声が広場を包む。フィナーレの音が消えたあとも、空気の中に余韻が残っていた。
かけるてやんでい。あんなにカッコよく弾きながらも、唄声も腹の底まで響いてきやがる。
りゅうこう間もノリも。観客の心も自在に……。
かける兄は、三味線を抱えたまま観客の拍手を受けていた。アコは軽く笑い、ブルはハープを下ろす。
かける……ちきしょう。かっこいいじゃねえか。
その一言には、悔しさと憧れが同じだけ混じっていた。
P20|じょんがらブルース 開始
今度は、三味線が前に出る
拍手が落ち着くより早く、かける兄が肩掛け三味線を少し持ち直した。
かける兄次は、じょんがらブルースでヨロシク!
ベベン! ジャカジャン!
さっきまで唄を支えていた三味線が、今度は真正面へ飛び出してくる。バチが弦を打つたび、空気が硬く、熱く震えた。
ハァー……
おくにじまんのじょんがら節よぉ Oho……
ブルYes! That’s so cool!
ブルのハープが、三味線の鋭い音にうねるように絡む。アコのギターは、その足元に道を敷くようにリズムを刻んだ。
かける今度は、三味線が前に出てきやがった。
かけるの目が、さっきよりも真剣になる。兄の音は荒っぽい。けれど、ただ勢い任せではなかった。
P21|じょんがらブルース 加速
速さだけじゃない、唄とノリの一体感
かける兄が一歩前へ踏み込む。三味線の音はさらに鋭くなり、アコの声は熱を帯びていく。
若い衆唄えば あるじの囃子 Yeah—
娘おどれば! 稲穂もおどる Uhoo……Yeah—!!
ヨッ! ニッポンイチ!
つむぎ気怠さの中にセクシーで、魂ゆさぶられる……!
かけるじょんがら節までブルースアレンジしやがった……!
かけるは悔しそうに歯を食いしばった。技の速さなら、練習すれば追えるかもしれない。けれど、唄とノリを同時に背負うこの感覚は、まだ遠かった。
はやりシャビ……心臓がドキドキ奮えるジャン!
りゅうこう空気が、風が……振動共鳴してる。
駅前広場の光が、音に合わせて揺れているように見えた。
P22|じょんがらブルース 余韻
唄弾きの奥深さに触れる
曲のラスト、アコ、ブル、かける兄の三人が一気に音を押し上げた。
Yeeeeeeeeeeeeeeah!
オオー! パチパチ!! ブラボー!!
歓声が弾ける。かけるは、その中心にいる兄をじっと見つめた。
かける……てやんでい。伊達や酔狂で世界中旅してねえってか。
りゅうこう演奏の鏡。
つむぎうん……あんな風に演奏できたら気持ちいいだろうね。
つむぎの言葉に、はやりはもうじっとしていられない様子で、足元を小さく弾ませていた。
はやりうずうずしてきたジャン……!
かける俺もあんな風に唄って、弾けるようになりてえ。
その声は小さかったが、つむぎにははっきり聞こえた。かけるの中で、何かが動き始めていた。
P23|嘉瀬奴踊りブルース 開始
田植え唄の明るいノリへ
次の曲に入る前、アコがギターを軽く鳴らした。駅前広場の照明は、稲穂を思わせる明るい黄色と、若苗のようなグリーンに変わっていく。
アコOK! 次は嘉瀬奴踊りブルース。みんな! 陽気に踊っちゃいな!
チャカ、ベン。チャカ、ベン。
さあさこれから
やっこおどりおどる
ヨヤナカサッサー
しっとりしたブルースの中に、どこか田んぼの風のような明るさが混ざる。はやりの体が、自然とリズムに揺れ始めた。
はやりこの曲を聴くと……体がうずうずするジャン……!
かける兄いいねぇ。踊りてぇやつは遠慮すんなよ!
ヨイショ! ハッ!
その一言が、はやりの背中を完全に押した。
P24|嘉瀬奴踊りブルース 飛び入り
観るライブから、一緒に入るライブへ
はやりもうダメジャン! じっとしてられないジャン!
はやりは観客の間をするりと抜け、ライブ会場の前へ飛び出した。
腕を開き、足を軽く運ぶ。見よう見まねの奴踊り風の動きなのに、はやりが踊ると場の空気がぱっと明るくなる。
アコカモン! ガール! そのまま乗ってきな!
はやりつむぎも来るジャン!
つむぎええっ!? わ、私も!?
はやりに手を引かれ、つむぎも前へ出る。最初はぎこちない足取りだったが、アコのギター、ブルのハープ、かける兄の三味線が、二人を包み込んだ。
かけるてやんでい。勝手に飛び入りしてやがる。
りゅうこうノッたもん勝ち。
タンタチッキ。タラタタチッキ。
鮎は瀬につく とりゃ木にとまる♪
わたしゃ あんたのこりゃ 目にとまる♪
ヨヤナカ! サッサー!
観客の掛け声が、はやりとつむぎの踊りをさらに大きくしていった。
P25|嘉瀬奴踊りブルース 盛り上がり
会場が一つの輪になる
嘉瀬奴踊りブルースは、どんどん広場全体を巻き込んでいった。はやりは満面の笑みで踊り、つむぎもいつの間にか自然に笑っていた。
もっと一緒に! 輪になって Yeeeeeeeeeeeeeeah!
ヨヤナカ! サッサー!
かける会場がお祭り状態じゃねえか。ひとつの輪になってやがる……。
タンタチッキ タラタタチッキ
りゅうこうは、いつの間にかカフォンでセッションに加わっていた。顔はいつも通り静かなままだが、そのリズムは確かに会場の熱を支えている。
つむぎわあ……踊るともっと、輪の中に入れるんだね。
はやり最高ジャン!
かける兄いいぞ! Girl!! 客席のお前らも! 歌い踊れや!
パチパチ!! ブラボー!! すげー!!
かける……てやんでい。あいつら抜け駆けしやがって。
かけるの声には、少しだけ悔しさが混じっていた。けれどそれは、仲間を責める悔しさではない。自分もあの輪の中に入りたいという、前向きな悔しさだった。
P26|津軽甚句ロカビリー かける・りゅうこう合流
会場の熱が、二人をステージへ引き込む
嘉瀬奴踊りブルースの熱気は、まだ広場に残っていた。澄美田駅前の駅ビルには青と緑の光が走り、観客の手拍子は少しずつ速くなっていく。
はやりツイストだって、踊れちゃうジャン!
つむぎわっ、こうかな!?
はやりはツインテールを揺らしながら、軽快に足をひねる。つむぎも見よう見まねでついていき、少しぎこちないながらも笑顔になっていた。
かける兄おう、かける! てめえ、見てるだけかよ。とっとと上がってきやがれィ!
かけるは三味線ケースをぎゅっと握った。兄の声には、からかいだけではなく、明らかな誘いがあった。
アコそこのカフォンのクールボーイも。あがってきなよ!
りゅうこう……喜んで。
りゅうこうは表情を変えないまま、カフォンを抱えて前へ出た。かけるも観念したように、ステージ側へ歩き出す。
はやり来たジャン! りゅうこう! かける先輩!
かけるてやんでい……結局こうなるんでい。
タンタチッキ タタタン
りゅうこうタン……タチッキ。入る。
かけるやるからには、手ぇ抜かねえぞ。
観客がざわめく。ステージに、三味線とカフォンの新しい音が加わった。
P27|津軽甚句ロカビリー 転調宣言
アコが会場のギアを上げる
はやりのツイスト、つむぎの見よう見まね、りゅうこうのカフォン、かけるの三味線。そこへアコ、ブル、かける兄の音が重なり、会場はさらに前のめりになっていた。
アコいい感じ! そろそろ、ギア上げるよ!
アコはギターを抱え直し、青と緑のネオンの中で不敵に笑った。
アコここから、津軽甚句ロカビリー! 一気に転がしていくよ!
かける兄来たねぇ! そいつぁ面白ぇ!
ブルLet’s rock!
ジャカジャ! タッタタ! ドドン!
アコのギター、かける兄の三味線、かけるの三味線、りゅうこうのカフォン、ブルのハープが一斉に跳ねる。音の景色が、急に明るく前へ転がり始めた。
かけるてやんでい……血が騒ぐ。ノッテきたぜ!
りゅうこうビートが前に出た。
高いやまこから 田の中みれば♪
ホーイ! ホーイ!
ロカビリーの跳ねるリズムに、津軽甚句の言葉が乗る。民謡なのに新しい。新しいのに、どこか懐かしい。
P28|津軽甚句ロカビリー 会場はお祭り状態
歌・踊り・演奏が一つの渦になる
澄美田駅前の広場は、もう完全にお祭り状態だった。青と緑の光が駅ビルの壁を駆け、観客の手拍子が広場全体を揺らす。
みれば田の中 いにゃよくもでる!
ホーイ! ホイ!
はやりついついツイスト、踊れちゃうジャン!
つむぎあわわっ……でも楽しい!
はやりはくるくると足を動かし、つむぎも必死についていく。二人の踊りは、観客の笑顔をさらに広げていった。
かけるちきしょう……このビート、クセになる!
りゅうこうノッテるかい。
りゅうこうの声は相変わらず静かだったが、カフォンのリズムはしっかり跳ねている。かけるは三味線を弾きながら、軽くステップを踏んでいた。
かける兄ほーい! ほい!
うたは よいもの 仕事ができる
はなしゃ悪いもの その手がとまる
ほーい! ホイ!
ステージ中央では、かける兄とかけるのツイン三味線が鳴っていた。兄の荒々しい音と、かけるのまっすぐな音が、ぶつかるのではなく絡み合っていく。
かけるこんちきしょう!! アニキとのセッション。最高じゃねえか。
パチパチ!! ブラボー!! ノってきたー!!
P29|津軽甚句ロカビリー 最高潮
かけるが、唄弾きへの憧れを強める
津軽甚句ロカビリーは最高潮へ向かった。アコの歌、ブルのハープ、かける兄の三味線、かけるの三味線、りゅうこうのカフォン、はやりとつむぎの踊りが、会場を一つの渦にしていた。
Tell us more! More, more!
ホーイ! ホイ!!
かけるてやんでい。三味線弾いてきて、今日が一番楽しいぜ。
かけるの目は、熱で明るく光っていた。悔しさも、照れも、憧れも、全部まとめて音になっているようだった。
はやり最高潮ジャン!
つむぎ会場ぜんぶが、ひとつになってる!
りゅうこう……のってけてけてけ。
タンタンチッキ タッタタチッキ
曲が締めに向かう。かけるは三味線を弾きながら、ステージ中央を見る。そこには、唄って、弾いて、観客ごと巻き込む兄の姿があった。
かける……てやんでい。俺も、あんなふうに唄って弾いてみてえ。
パチパチ!! ブラボー!! イエーー!! すげーー!!
P30|ソーラン節カントリー 鳴りやまぬアンコール
かける兄が、かけるを唄弾きへ誘う
津軽甚句ロカビリーが終わった直後、澄美田駅前広場には大きな拍手が鳴り響いた。
アンコール! アンコール!
赤と桜色の光が、駅ビルと観客を包む。演者たちは息を切らしていたが、誰もすぐには楽器を下ろさなかった。
はやりシャビ!!! アンコールジャン!
つむぎ会場が……まだ音を求めてる。
りゅうこう音のおかわり。
その時、かける兄が肩掛け三味線を持ったまま、かけるの前に立った。
かける兄おい、かける。最後はおめえも、唄って弾け。
かけるはあ!? 俺が唄弾きやんのかよ!
かけるは思わず身構える。けれど、かける兄はからかうように笑うだけだった。
かける兄心配すんなって。おめえなら出来る。
かけるてやんでい……逃げるわけにゃ、いかねえじゃねえか。
かけるは三味線を構え直した。初めて本気で、唄弾きの世界へ足を踏み入れる瞬間だった。
P31|ソーラン節カントリー 兄妹唄弾きセッション
ロカビリーからカントリーへ
アコはアコースティックギターを抱え、観客へ向かって笑顔で声を張った。
アコアンコール、ありがと! 最後は趣向を変えて、カントリーでいくよ!
アコさらに兄妹で唄弾きセッション。見せてもらおうじゃない。
かける兄とかけるが、横に並んで三味線を構える。赤と桜色の照明が、二人の横顔を照らした。
かける兄俺がリードしてやっから、おめえはついてこい。
かけるえらそうに! てめえこそ、モタモタしてると置いてくぞ!
チャカチャカ ベン! タンタッタ
アコのギター、ブルのハープ、りゅうこうのカフォンが軽やかに入る。かける兄の三味線が道を作り、かけるの三味線がそこへ重なった。
カモン! ドッコイショ! ドッコイショ!
ドッコイショ! ドッコイショ!
兄妹唄弾きセッションが始まった。かけるの顔には緊張があったが、その目は逃げていなかった。
P32|ソーラン節カントリー 唄と三味線が乱れかける
兄のフォローで、波に乗る
ヤーレンソーラン
ソランソーランソーラン♪
ハイハイ!
かける兄とかけるは並んで三味線を弾きながら唄う。かける兄は余裕を持って前を走り、かけるは必死にその背中を追った。
かけるくっ……唄うと手が……手を見ると唄が……!
ベ……ン……
ほんの一瞬、かけるのバチが遅れかける。歌の息と三味線の手が、別々の方向へ引っ張られそうになった。
かける兄逆らうな。波に乗れ。
かける……波。
かけるは目を閉じた。手元を追うのをやめる。兄の音、アコのギター、りゅうこうのカフォン、観客の声。その全部を、一つの波として聞いた。
沖のカモメに潮時問えば
わたしゃ起つ鳥 波に聞けチョイ!
乱れかけていた音符が、ふっと整う。かけるの声と三味線が、同じ呼吸で前へ進み始めた。
P33|ソーラン節カントリー フィナーレ
かける、唄弾きをやり切る
フィナーレの光が、澄美田駅前広場を包んだ。赤、桜色、そして金色のきらめきが、駅ビルの前に花火のように広がる。
ヤサ、エンヤ~コラのドッコイショ
ドッコイショ! ドッコイショ!
かける兄とかけるが、並んで三味線を鳴らす。アコがギターを刻み、ブルがハープで余韻を伸ばし、りゅうこうのカフォンが最後まで土台を支える。
かける……できた。唄と三味線が、同じ息で走った。
かける兄へっ。やりゃあできるじゃねえか。
かけるしゃらくせえ! こんくれえ朝飯前だっての!
かけるは強がった。けれど、その顔には隠しきれない嬉しさがあった。
つむぎすごい……会場が家族になったみたい。
はやり最高のアンコールだったジャン!
かける……てやんでい。てめえらもありがとな。
パチパチ!! ブラボー!! アンコール最高!! すげーー!!
こうして、かけるは初めての本格的な唄弾きを、最後までやり切った。
P34|警察の笛と大逃走
達成ムードを変える、ピーッ!
フィナーレの余韻が、まだ広場に残っていた。その時だった。
ピーッ!
駅前巡回の警察官が、笛を吹きながら近づいてくる。観客が小さくざわめき、演者たちが一斉に振り返った。
警察官君たち。許可を得て、ここで演奏しているのかね?
はやりシャバ!! おまわりさんジャン!
つむぎええっ!?
かけるアニキ! 許可得てんのかよ!
かける兄得てるわけねえだろ。ズラかれ!!
ダダダッ! わーっ!
その一言で、全員が一斉に動いた。かける兄は三味線を抱え、かけるも三味線を抱え、アコはギターを担ぎ、りゅうこうはカフォンを抱え、つむぎとはやりも楽器ケースをつかむ。
警察官待ちなさい!
ブルは手ぶら同然の身軽さで先頭を走り、メンバーは読者の方へ飛び出すように、四方八方へ散会した。
P35|路地裏でライブの振り返り
逃げ切ったあと、次の課題が見えてくる
澄美田駅前近くの路地裏。灰色の壁とゴミ箱だけの静かな場所で、全員がようやく息を整えた。
はあ…… ふう……
楽器はそれぞれケースにしまわれている。りゅうこうだけはカフォンを抱え、ブルはハープが小さいのでほとんど手ぶらだった。
アコ最高だったよ。あんたたち、筋がいいね。
ブルmy Brother! ジンルイ、ミナキョウダイ。
りゅうこう次は三味線で。
つむぎりゅうこうらしいね。ちゃんと次を見てる。
はやりうちらも次は三味線で、セッションしたいジャン!
つむぎうん。私も今度は、演奏で参加したい。
かけるは三味線ケースを背負ったまま、少しだけ目を伏せた。まだライブの熱が、体の中に残っている。
かける唄弾き……てめえのおかげで・・あ、ありが・・たくもねえ余計な労働が増えちまったぜ。
かける兄ったく、世話のやける妹だぜ。
二人とも素直ではない。けれど、つむぎには、それが兄妹なりの「ありがとう」に聞こえた。
P36|ジャズとジャムセッションだ!
次に開く、新しい音楽の扉
路地裏の空気が少し落ち着いたころ、かける兄は壁にもたれたまま、四人を見渡した。
かける兄今日、お前さんらは、新しい世界が開けた。
かける兄ジャズも、津軽三味線に通ずるところがある。
つむぎジャズ……?
はやりジャムならイチゴジャム、ジャン?
りゅうこう即興演奏の方。
かけるは腕を組み、兄をにらむように見上げた。けれど、その目には興味があった。
かけるまた知らねえ世界に、放り込む気かよ。
かける兄経験して、損はねえ。
かける兄俺の知り合いのジャズバーがある。明日の夕方、おめえら全員で来い。
かける兄次はジャズで、ジャムセッションだ!
つむぎ明日……!
はやりなんだか、おいしそうジャン!
三味線、民謡、ブルース、ロカビリー、カントリー。そして次はジャズ。つむぎたちの音楽の世界は、また一つ広がろうとしていた。
P37|次回予告 第9話 シャミる?ジャムる?
シャミる! 次回予告
派手な音符、星、桜、三味線アイコンが飛び交う次回予告ページ。背景には、ジャズバーを思わせる夜の音楽ステージ風の光が広がっている。
つむぎジャズバーで、ジャズとジャムセッション!
はやりジャムより、マーガリン派ジャン!
りゅうこう甘党男子。
かけるてやんでい。また一波乱ありそうだぜ!
つむぎ・はやり次回も、見どころ満載!!
かける次回も、ぜってえみてくれよな!!
ジャズ?
ジャム?
シャミる?
次回 第9話|シャミる?ジャムる?
ジャズセッション











