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シャミる!12話 盆踊る!三味線と和太鼓夏祭り

12話登場人物紹介


つむぎ主人公三味線クラブ創設者。今回は町会の夏祭りに参加!?

はやり つむぎの大親友。ムードメーカー
母はプロダンサー。今回は三味線で参加。

りゅうこう 冷静
無口男子、祖母は三味線弾き。打楽器も好きで今回はチャンチキで参加。

かける 江戸っ子
三味線クラブのリード役。今回は三味線弾き語りで参加。

なおと
7話で登場。ひびきたちの民謡の会所属。町会の夏祭りを継承する事に奔走

ひびき
6話7話10話11話で登場した民謡会和太鼓担当。広島弁。たいきちとは腐れ縁で馬が合う。

ともえ
2,6,7,10,11話最多レギュラーキャラ。民謡会の篠笛担当。東北弁。篠笛担当。

たいきち
7話10話11話で登場した尺八。民謡会所属。博多弁、空回りキャラ

第12話漫画版は下スクロールして読む事が出来ます。

第1章 プロローグ トンデモ実行委員会

夏休み最後の舞台へ

P1祭りの匂い

つむぎ「提灯の準備、もう始まってる」

つむぎが顔を上げた。通りの先まで、赤と白の提灯が続いている。黄色い浴衣の袖を押さえ、背中の楽器の重みを確かめた。

隣では、はやりの目が屋台に吸い寄せられていた。湯気の向こうで、焼けた食べ物がつやつや光る。

はやり「お腹をくすぐる祭りの匂いがするジャン!」

かける「てやんでい。食い気はあとでい!」

かけるが指を立てる。その横で、りゅうこうは巾着を手に、先を見た。

りゅうこう「まず、合流。」

つむぎも屋台から祭りのやぐらへ目を戻す。今日は、夏休み最後の舞台だ。

つむぎ「夏休み最後、いい舞台にしよう!」

指さす先へ、四人は並んで歩きだした。

P2提灯をもう一段

たいきち「こっちの提灯、もう一段上げるったい!」

やぐらの上で、たいきちがひもを結んでいた。黒い浴衣の袖から伸びる腕に、ぐっと力が入る。

ともえ「んだ。飾り付けしっかりするだ。」

ともえも飾りへ手を伸ばす。白い花の髪飾りが、提灯の下で揺れた。

ひびきは手すりから下をのぞいた。

ひびき「こりゃ!なおと。上がって来て手伝わんかい!」

下にいるなおとは、困った顔で手を上げる。

なおと「ボクは高いところは苦手なんだよ~」

ひびきが、今度はたいきちを指さして笑った。

ひびき「たいきちは高いところが好きじゃろ?」

たいきち「どげん意味たい!」

たいきちは振り返っても、ひもをつかむ手は放さなかった。言い返す声の上で、提灯が小さく揺れる。準備の手は、止まらない。

続けていくための準備

P3音を続けるために

掲示板には、夏祭りの注意事項が貼られていた。大音量での演奏はNG。音出しは夜六時から八時まで。

その文字を思うと、たいきちの眉が下がった。

たいきち「近頃は騒音問題で、祭りの音まで消えてしまうたい」

ひびきは胸の前で手を開いた。声に、いつもの勢いだけではない切実さが混じる。

ひびき「住民に迷惑はかけとうない。じゃけど、伝統行事を絶やしたらダメじゃ」

ともえ「んだ。昔からの音も、今の暮らしも、どっちも大事だ」

ともえが手を合わせるように重ねた。誰かが楽しむ音を、誰かの困る音にはしたくない。

なおとは予定の表を持ち上げ、時間を示した。

なおと「だから時間と場所を守って、続けられる形にしよう」

みんなの視線が、表へ集まる。鳴らす時も、鳴らさない時も決めておく。その準備も、今夜の演奏を支えていた。

P4手伝うよ

提灯に明かりが入り、やぐらの赤と白が浮かび上がった。たいきちは、つむぎをまっすぐ見た。

たいきち「おいたちゃ、こん祭りば絶やしたくなか」

隣でひびきが、はやりに力強くうなずく。

ひびき「踊る人がおって、参加者がおって、祭りになるんじゃ」

ともえ「んだ。毎年楽しみに待ってる人もいるだよ」

ともえの言葉を、りゅうこうは静かに聞いた。

なおとは、かけるに少し身を寄せる。

なおと「でも僕たちだけじゃ、演奏も運営も手が足りなくて・・」

その声を聞き終えると、つむぎの手が胸の前できゅっと握られた。

つむぎ「うん!わかった。わたしたちも手伝う」

かける「演奏も準備も、任せときな!」

かけるの返事に重なるように、はやりが腕を高く上げる。

はやり「祭りを盛り上げるジャン!」

頼む側と手伝う側の間にあった距離が、笑顔ひとつ分、近づいた。

トンデモな計画

P5トンデモ実行委員会

マリ「たちつてトントン!!」

大きな扇を背に、マリが手を差し出した。両脇にはザンスとズラ。三人とも、もう自分たちが主役だと言いたげな顔をしている。

はやりの笑顔が、すっと引っ込んだ。

はやり「シャビ、またややこしいのが来たジャン」

かけるも口を結び、三人を見返す。

マリ「古臭いお祭り、実行委員会のわたくしたちが新しくして差し上げますことよ」

マリは扇を広げたまま、すました顔だ。ザンスが身を乗り出した。

ザンス「トンデモ実行委員会ザンス!」

ズラ「やりっぱなしのほったらかしズラ!」

ズラまで胸を張る。その言い方には、任せてよいのか不安になる響きがあった。さっきまで準備へ向いていたみんなの目が、三人に集まった。

P6会費の行方

ザンスは、カモとネギを描いた板を示した。

ザンス「町会費はカモネギにございます!!」

続いてズラが掲げたのは、積み上がった札束の絵だ。

ズラ「ガッポリ集めて――」

マリが差し出したものは、その山とはあまりに小さかった。白い袋が、手のひらに収まっている。

マリ「チョッピリ還元♡」

つむぎは受け取った袋を見下ろした。もう一度、三人の顔を見る。

つむぎ「え、還元、これだけ……?」

かけるは袋を突き出した。声が鋭くなる。

かける「てやんでい!大切な会費をカモネギだと!」

ザンスの笑顔が引きつった。両手を前に出し、慌てて言う。

ザンス「これから納得の行く説明するザンス」

かけるの手は下がらない。つむぎの手の中の袋だけが、かさりと鳴った。

P7消していいものじゃない

マリが示した計画には、まばゆい舞台が描かれていた。

マリ「古い伝統やしきたりは、一新いたしましょう」

ザンスはやぐらを否定するように、得意げに眼鏡へ指を添えた。

ザンス「盆踊りは時代遅れザンス!」

ズラも、提灯と光る照明を見せ比べる。

ズラ「全部キラキラLEDにするズラ!」

ともえが手を前へ出した。さっきまでの柔らかな顔に、はっきりと怒りが浮かんでいる。

ともえ「昔から続いでるもの、勝手に消すでねえ」

たいきちも指を突き出した。

たいきち「きさんたちゃ、脳ミソにカビ、生えとうばい」

結び直した提灯も、楽しみに待つ人のことも、三人の計画には見えていない。ともえは、差し出した手を引っ込めなかった。

P8祭りじゃなくてマリ

三人の説明は、ますます派手になった。

マリ「メインステージは、わたくし専用」

豪華な舞台の真ん中に立つつもりで、マリが扇を掲げる。

マリ「皆さまは、ワタクシを讃える下僕ですことよ」

ザンスが続く。

ザンス「観て楽しむスクイようがない社長専用錦鯉スクイザンス」

ズラの自慢も止まらない。

ズラ「観るだけ嗅ぐだけ社長専用一流シェフ付高級屋台ズラ」

金色の舞台。大きな錦鯉。食べられないごちそう。話を聞くほど、みんなが入れる場所が狭くなる。はやりとかけるは、その図々しい計画に押しつぶされそうだった。

はやり「もはや祭りじゃなくてマリ ジャン!」

はやりが両手を上げて抗議する。かけるも、負けじと指を突き出した。

かける「そんなもん金払うもんかい!!」

みんなの祭りを始めよう

P9無料の下の三万円

ザンスとズラが、今度は案内の板を掲げた。

ザンス「なんと良心的、入場無料ザンス!」

ズラ「入場料無料ズラ」

つむぎは板へ顔を近づけた。大きな案内の下に、見逃せない文字がある。

つむぎ「し、下に、何か書いてあるよ」

〈※社長専用基金 三万円也〉

りゅうこうの目が細くなった。

りゅうこう「ぼったくり・・」

短い一言が、すとんと落ちる。それでもズラは満面の笑みで、白い袋を差し出した。

ズラ「ポケットティッシュのご加入特典付ズラ」

かけるが手のひらを突き出して、その先を止めた。

かける「三万円でティッシュ一個たぁ、べらぼうめ!」

無料という言葉も、今はちっとも軽く聞こえない。つむぎは、三万円の文字から目を離さなかった。

P10みんなの祭りへ

はやり「却下ジャン!」

はやりが大きな判を押しつける。ばさっと書類が舞った。かけるはマリへ向き直る。

かける「祭りはてめえ一人のもんじゃねえ!」

つむぎは、もうやぐらの方を見ていた。

つむぎ「準備、急ごう」

四人は肩を並べ、三人の前を離れていく。りゅうこうも、今度ばかりは言葉を返した。

りゅうこう「おとといきやがれ!!スットコドッコイ!」

かけるも負けていない。

かける「おとといきやがれ!スットコドッコイ!」

その背中を見送るザンスは、口元に笑みを残した。

ザンス「実行委員会ボスは天下人ザンス!」

マリは扇を手に、ゆっくり笑う。

マリ「ホホホ。鳴かぬなら、『鳴かない、音ない祭り』にして差し上げましてよ」

提灯の明かりは変わらない。四人が向かう先には、準備を続ける仲間と、これから鳴らす音が待っていた。

第2章 東京音頭と盆踊りレクチャー

東京音頭の輪

P11東京音頭、始まる

かける「よっしゃー!先ずは東京音頭でい!」

かけるの声が、やぐらから広がった。胸元の白い三味線に、バチが下りる。ひとつ目の音が、待っていた足を誘った。

ひびきも太鼓のバチを高く掲げる。

ひびき「みんな歌って踊りんさい!」

太鼓が拍を置く。その拍へ三味線の音が乗り、やぐらのまわりに踊りの輪が生まれた。

つむぎも、はやりも、両腕を上げる。隣の人の手を見て、足を動かす。さっきまで祭りを守ろうと言い合っていた体が、今はその祭りの中にいる。

町会の夏祭りSTART!!!

提灯の明かりの下で、みんなの袖がふわりと開いた。

P12笛が呼び、歌が届く

ピーひゃら♪

ともえの篠笛が、細く澄んだ道を空へ描いた。唇に当てた竹の笛を、指が軽やかにたどる。息を送り続ける横顔は、穏やかだった。

その響きを受けて、ひびきがバチを振る。

「ヨイ♪ヨイ♪」

太鼓の低い響きが、浮き立つ気持ちを足元で支える。かけるは三味線を弾きながら、踊る人たちへ顔を向けた。

「ハ〜踊り躍るなら チョイと東京音頭♪」

声はまっすぐで、明るい。笛が誘った先へ、歌が言葉を届けていく。手を上げた人の向こうにも、また手が上がった。

P13花と柳の景色

「花は上野よ♡」

かけるの歌に、花びらが重なる。提灯の明かりと桜色が溶け合い、祭りの景色がぱっと広がった。

たいきちは尺八に息を送り、歌のそばへ落ち着いた音を添える。なおとの指は箏の弦を渡り、粒のそろった響きを置いた。

「チョイと柳は銀座♪」

かけるの左手が棹を進む。歌の切れ目で、三味線が言葉の続きを引き受けた。なおとの音がそれを受け止め、尺八の息が長くつなぐ。

ひとりで前へ出る時も、ひとりきりではない。かけるの口元に、自然と笑みが残った。

P14月と屋形船

〈月はすみだの 屋形船 サテ!〉

歌の景色は、月を映す川へ広がった。屋形船の提灯が、水面で細かく揺れている。

つむぎとはやりは三味線を構え、顔を見合わせた。相手の手が下りるのを感じ、自分のバチを合わせる。つむぎの音の後ろへ、はやりの明るい響きが続いた。

手前では、りゅうこうが小さな鐘を支えている。澄んだ金属の音が、弦の響きの間を通った。

つむぎはその合図を聞き取る。相手を見るだけでなく、音からも次の拍がわかる。月明かりの下で、三人の呼吸が近づいていった。

P15輪の中の返事

「ヤットナ♪ それ!」

かけるの声が、もう一度みんなを押し出した。尺八を吹くたいきちの隣で、ひびきがバチを振り上げる。

「ヨイ♪ヨイ♪ヨイ♪」

掛け声が弾むたび、踊りの輪が息を合わせた。

はやりとつむぎは、向き合うように腕を上げる。つむぎが動けば、はやりの袖も揺れる。ひとつ前の動きを考えているうちに、次の拍がやって来る。それでも、足は止まらなかった。

やぐらの音を聞いて、隣の笑顔を見る。その繰り返しの中で、踊りは少しずつ体に入っていった。

見て、まねて、踊って

P16あんなふうに踊りたい

ひびきとともえの腕が、すっと同じ方へ伸びた。手のひらの向きまで自然にそろっている。はやりは胸の前で手を組んだ。

はやり「ひびきかっくいージャン!」

つむぎ「ともえちゃんもとても綺麗」

つむぎも、二人の手先を見つめる。ともえは踊りの形を残したまま、優しく笑った。

ともえ「毎年踊ってれば自然に踊れるようなるだよ」

その言葉を聞いたそばから、たいきちが身を乗り出す。

たいきち「おいにいわせりゃ二人共なっちょらんたい!」

はっきり言い切る顔は、自信たっぷりだった。今度はどんな手本を見せるのか。祭りの明かりが、たいきちの広げた手にも当たっていた。

P17誰の手本?

たいきち「こげんしてもっとビシッときめんね。」

たいきちは片腕を斜めに伸ばした。もう片方の腕は胸の前。指先まで、ぴんとしている。

ところが、つむぎとはやりは、ひびきやともえと並んで踊っていた。四人の腕が上がるたび、浴衣の袖がふくらむ。笑い合う顔は、そちらへ向いたままだ。

なおとが両手を開いた。

なおと「たいきち、誰も聞いてないよ。」

たいきち「きさんたちゃ!盆踊りば わかっとらんったい!」

たいきちの握りこぶしに力が入る。

ともえは、はやりの動きを見てうなずいた。

ともえ「はやりちゃん筋がいいだな」

はやりは両方の親指を立てた。

はやり「まっかっせなさいジャン!」

ほめられた途端、次の動きまで軽くなりそうだった。

P18腕を上げて、腰を落として

ひびき「ココもっと腕あげんさい」

ひびきが腕を上げてみせる。つむぎも隣でまねをした。さっきより高く上がった袖の下に、風が通る。

たいきちも、手を前へ伸ばした。

たいきち「ココは腰を落とした方がよかばい」

すると、ひびきがすぐに指を突き出す。

ひびき「こりゃ!たいきち、どさくさに紛れて触ろうとしよるんじゃ。」

ともえは口元を緩め、たいきちを見た。

ともえ「ひびきを取られてやきもち焼いてるだよ」

たいきちは腕を組んだ。顔をそらして、強く言い返す。

たいきち「なんが!こげん女にヤキモチ焼くか」

ひびき「素直じゃないのう!」

ひびきは腰に手を当てて笑った。手本の動きと、いつもの言い合い。そのどちらにも、長く一緒にいる二人の息が感じられた。

はやりの立候補

P19次に歌うのは

かけるが楽譜を開いた。

かける「踊りも良いがそろそろ次の曲行こうぜ!」

踊りに向いていたみんなの気持ちが、次の演奏へ集まる。つむぎが顔を上げた。

つむぎ「次に歌う人はどうする?」

はやりは迷わず、自分を指さす。

はやり「はやりが歌うジャン!」

かけるの眉が、少し上がった。

かける「おめえさん歌えるのか?」

はやりは胸の前でこぶしを握った。たじろぐどころか、目がますます明るくなる。

はやり「シャビ!?せっかくのお祭りジャン!」

歌ってみたい。その気持ちは、もう顔いっぱいに出ていた。

P20唄って、踊る

はやり「参加する事に意義あるジャン」

はやりは両手を組み、つむぎとかけるを見た。

はやり「はやりが唄って!」

胸へ手を当てたかと思うと、今度は袖を大きく広げる。

はやり「踊るジャン!」

片足を軽く上げる姿に、さっき教わった踊りの勢いが残っていた。見ているだけでは収まらない。その楽しさが、二人にも伝わる。

かけるは三味線を構えた。

かける「おお!全力で行け!三味線で盛り上げてやっからよ!」

はやりは、ぱっと笑った。歌う場所がある。応えてくれる音もある。

はやり「シャミる! 盆踊る!ジャン!」

その声を合図に、次の一曲へ気持ちがそろった。

第3章 炭坑節とはやりファン誕生

月夜の炭坑節

P21はやりの炭坑節

はやり「さあみんな!!」

月とスカイツリーを背に、はやりが呼びかけた。髪飾りの間には、白いうさぎの耳。これから始まる炭坑節は、月まで巻き込むような華やかさだった。

りゅうこうは両手を胸元に寄せている。かけるは少しむっとした顔。ひびきは大きく口を開けて笑っていた。仲間の反応はそれぞれだ。

それでも、はやりの勢いは止まらない。三味線を手に、もう一方の腕をみんなへ伸ばす。足を踏み出すと、桃色の袖がひらいた。

はやり「張り切って行くシャビ!」

声が川辺に飛び出した。見ている人の手まで、自分の方へ引き寄せたい。そんなはやりの笑顔が、舞台の真ん中にあった。

P22月がでた

はやりが手を差し出す。その横で、つむぎは三味線へバチを下ろした。柔らかな顔つきのまま、音の芯ははっきりしている。

月明かりの世界に、三匹のうさぎが跳ねた。揃った足が光を散らし、水面まで踊りだしたように見える。

「月がでたでた 月がでた ♪」

はやりの歌が伸びる。息をたっぷり使った声に、三味線の刻みが寄り添った。

「ハ ヨイヨイ♪」

掛け声を挟むと、次の歌へ向かう足が軽くなる。はやりは三味線を抱え、袖をひるがえした。月の下の笑顔と、つむぎの笑顔が、ひとつの拍でつながった。

P23大きな踊りの仲間

腕を上げ、膝を上げる。相撲取りや、赤穂浪士を思わせる装いの踊り手たちが、列になって動いた。体の大きさが違っても、踏み出す時はそろっている。

かけるは歌に応じるように口を開き、三味線を鳴らした。ともえの篠笛が高いところを通り、なおとの箏がその下へ小さな光のような音を散らす。

その真ん中で、はやりは手を広げた。

「すみみだの夜空の上に出た ジャン♪」

歌の終わりを、いつもの「ジャン」が弾ませる。後ろの踊り手も、ひときわ大きく手を上げた。

はやりは笑う。前へ出した声が、仲間の音と動きになって返ってきていた。

P24音の波

ひびきのバチが太鼓へ向かう。りゅうこうは鐘の内側へ道具を当て、短く澄んだ響きを添えた。

つむぎとかけるの三味線が並ぶ。隣の手を感じながら、音の頭を合わせる。ともえの篠笛とたいきちの尺八は、それぞれの息で歌を支えていた。

「あんまりスカイツリーが高いので」

はやりが歌うと、背後に青い大波の景色が広がった。白いしぶきが、踊る袖のように立ち上がる。月にはうさぎの姿が浮かんでいた。

はやりは足を開き、客席へ手を伸ばす。音が大きな波になっても、その顔は見失われない。仲間がつくる拍の上で、声を思いきり遠くへ放った。

P25三味しか勝たん

つむぎ、はやり、かけるが顔を寄せる。うさぎの耳も、三人の笑顔も、少しずつ違っていた。

はやりが再び前へ出る。まわりの踊り手も観客も手を上げた。月のうさぎまで跳ねる景色の中で、桃色の袖が大きく広がる。

「三味しか勝たん!」

ひと息置いて、さらに弾む声。

「ジャン!!」

三人の三味線がそろった。つむぎも、かけるも、はやりの勢いを受け止めて笑う。ひとりの歌から始まった楽しさが、最後には三人の表情にあふれていた。

弾き終えた腕には、まだ拍の感触が残る。はやりはその熱を抱えたまま、みんなへ笑顔を向けた。

届いた歌と、大きな夢

P26はじめてのファン

女の子「おねえちゃん、歌うまい!」

小さな女の子が、両手を胸の前で握って見上げていた。隣の男の子も、目を輝かせている。

男の子「踊りもかっこよかった!」

はやりは頬へ手をやった。さっきまであんなに堂々としていたのに、ほめられると返事が少しつかえる。

はやり「そ、それほどでもあるジャン?」

二人のまっすぐな顔を見ていると、口元が勝手に緩む。つむぎも笑った。

つむぎ「ふふふ。はやりファン誕生だね。」

かける「てやんでい、乗せすぎんなよ」

かけるは横から釘をさす。それでも、はやりの頬は赤いままだった。自分の歌と踊りが、ちゃんと誰かに届いていた。そのうれしさは、なかなか収まりそうにない。

P27夢はワールドツアー

はやりの頭の中に、大きな舞台が広がった。まぶしい光。桃色の応援の光。両腕を開いた自分へ、会場いっぱいの視線が集まる。

はやりオンステージ妄想中!

その勢いのまま、はやりは二人の子どもに話しだした。

はやり「先ずは全国ツアー!」

指を立て、さらに先へ進む。

はやり「その次はワールドツアー!」

子どもたち「わー!」

二人は夢の大きさに目を丸くした。

かけるは目を閉じ、額に手を当てる。

かける「ったく、話が三段飛びしてやがる」

今いる場所は町会の夏祭りだ。けれど、はやりの気持ちはもう、とても遠くまで歌いに行っていた。

P28次の歌へ

はやり「おまいら、将来はやりのバックダンサーにしてやるジャン!」

はやりが二人へ身をかがめると、小さな足がそろって跳ねた。

子どもたち「やったー!」

つむぎも、うれしそうな二人に手を向ける。

つむぎ「次の曲も応援してね!」

ともえが篠笛を手に、顔を上げた。

ともえ「次、オラが唄う番だ」

はやりはすぐに胸の前でこぶしを握る。

はやり「コーラスと盛り上げはおまかせジャン!」

今度は、自分が真ん中に立つ番ではない。それでも声の明るさは変わらなかった。さっき仲間にもらった支えを、次はともえへ返す。祭りの音は、そうやって次の人へ渡っていく。

第4章 ソーラン節と神様へのお祈り

夜祭の祈り

P29ありがとうと、つまみ食い

稲穂や野菜、食べ物が並ぶ前で、ともえとつむぎは目を閉じた。手のひらを合わせると、にぎやかな祭りの中にも、静かなひと呼吸ができた。

〈豊年豊作 神様ありがとう。〉

食べられること。実りがあること。そのありがたさを、二人はしばらく両手に収めていた。

ところが、はやりの手には、もう食べ物がある。

はやり「つまみ喰いジャン!」

頬を緩めるはやりに、かけるが指を立てた。

かける「てやんでい、バチがあたるぞ!」

はやりは両手を胸元へ寄せ、にっと笑う。

はやり「バチが当たる!最高ジャン!」

かける「そのバチじゃねえ!!」

かけるの返事が間髪を入れず飛んだ。祈りの静けさに、いつもの二人のやり取りが戻ってきた。

P30小さな命を囲む音

〈子孫繫栄〉

提灯に照らされた輪の真ん中で、赤ん坊が口を大きく開けて泣いていた。小さな手足には、精いっぱいの力が入っている。

そのまわりに、八人の演奏者がいる。ひびきの太鼓。なおとの箏。たいきちの尺八と、ともえの篠笛。かける、りゅうこう、はやり、つむぎの三味線。

それぞれの手は楽器に触れ、顔は仲間へ向いていた。はやりの笑顔を、つむぎも笑顔で受ける。かけるのそばでは、ともえが笛に息を送っている。

赤ん坊の声も、その輪の中にあった。まだ歌にはならない、小さな命の声。弦や笛の響きに囲まれながら、確かにここにいると伝えている。

この子の先にも、祭りの明かりが続くように。夜の音には、そんな願いが重なっていた。

P31福を招く手

大きな招き猫の横で、はやりが手を丸めた。猫と同じように、ひょいと上げる。りゅうこうは身をかがめ、並ぶ福々しい置物を見ていた。

つむぎは笑顔で手を合わせる。手のひらが近づく、その小さな動きにも、うれしさがこもっていた。

〈商売繁盛〉

三人がそろって腕を伸ばすと、福を招く形が三つ並んだ。はやりは大きく、つむぎは明るく、りゅうこうは落ち着いて。まねる形は同じでも、その人らしさは残る。

今夜の屋台や、明かりのついた店先が思い浮かぶようだった。手を差し出す三人の前で、招き猫は変わらずに笑っていた。

P32満点組も、赤点組も

なおとが箏のそばで紙へ手を伸ばす。ともえは篠笛を持って、その様子を見ていた。

〈満点組も!〉

続いて、たいきちとかけるが親指を立てる。二人とも、ためらう様子はない。

〈赤点組も!〉

その堂々とした笑顔には、思わずつられそうになる。

〈学業成就!〉

四人は楽器へ戻った。ともえが笛を吹き、なおとが弦をはじく。たいきちは尺八へ息を送り、かけるのバチが三味線を鳴らす。

文字の上では別々の組でも、今の音は一緒だった。相手の響きを聞き、自分の音を入れる。四人の顔には、それぞれの集中が戻っていた。

世代をつなぐソーラン節

P33赤ん坊も、お年寄りも

「ハァードッコイショ!」

ソーラン節の掛け声に、はやりの三味線が弾む。たいきちの尺八が続き、ひびきの太鼓がしっかり拍を置いた。

はやりは、赤ん坊を抱いた女性の方へ身を寄せる。赤ん坊の手が、ぱっと伸びた。小さな口は笑っている。はやりも目を細め、同じ高さへ顔を近づけた。

客席では、お年寄りの二人が向き合って手を打っていた。

「ドッコイショ!」

返ってくる声には、舞台とは違うあたたかさがある。大きな動きでなくても、拍は届く。はやりはその笑顔を見ながら、次の響きへバチを運んだ。

P34ともえの歌

ともえが篠笛を下ろし、胸へ手を当てた。

「ヤーレン ソーラン」

声が、まっすぐに伸びていく。笛を吹く時とは違う、言葉を乗せた息だった。急がずに伸ばした音の先を、はやりとつむぎが見上げる。

二人は歌に合わせて体を弾ませた。はやりは手を開き、つむぎは胸元に小さなこぶしをつくる。

「ハイハイ!!!」

返事を受けたともえの顔が、さらに明るくなった。ひとりの長い声へ、二人の短い声が重なる。前へ進めるのは、歌う人だけではない。そばから返る声も、歌を遠くへ運んでいた。

大きな光、小さな光

P35女、度胸なら

かけるのバチが鋭く下りる。その一音を受けるように、ひびきの腕が太鼓へ向かった。

〈女 度胸なら 三尺玉〉

大きく開く花火の景色が、二人の背後を満たす。かけるは足を踏ん張り、棹を支えた。ひびきは笑顔のまま、次の一打へ腕を高く上げる。

三味線は細かく切り込み、太鼓はひとつの拍を太くする。同じ勢いでも、役目は違う。かけるの音が走った先を、ひびきの響きが受け止めた。

二人の袖が広がる。ためらわずに出した力が、大輪の光と重なっていった。

P36空の上へ

〈ドンと乗り出せ!〉

花火の景色の中で、たいきちが手を伸ばした。丸い耳と灰色のマント。ねずみを思わせる姿のまま、片手には尺八を握っている。

なおとも箏を抱え、ふわりと浮かぶような姿になった。りゅうこうの三味線も、その光の中にある。

〈空の上 チョイ♪〉

ねずみの花火が尾を引き、金色の線が三人をつなぐ。演奏の勢いが、足元から空へ抜けていくようだった。

たいきちの大きな表情。なおとの丸くなった口。りゅうこうの笑顔。音の中で思いきり遊ぶ三人が、夜空いっぱいに広がっていた。

P37線香花火ほどの間

川面の光を背に、かけるとともえが並んだ。かけるは三味線へ目を落とし、ともえは胸に手を当てる。

「ヤサーエンヤー」

歌が、長く尾を引いた。かけるの音は、その声のそばを離れない。強く押し出すばかりでなく、伸びる息を待つような響きだった。

ともえの手元で、線香花火が小さく開く。細い火が散り、消えたところへ、また次の火が生まれた。二人の目も、その明かりへ下がる。

〈サーのドッコイショ〉

大きな花火の後だからこそ、小さな光がよく見えた。音と音の間にも、まだ歌のぬくもりが残っている。

P38八人のドッコイショ

夜空いっぱいに、花火が開いた。

「ハー ドッコイショ!」

ともえの歌を真ん中に、八人の音がそろう。後ろでは、ひびきが太鼓を打ち、なおとが箏を弾き、たいきちが尺八を吹いていた。

はやりとりゅうこう、かけるとつむぎの三味線が、それぞれの場所から響きを重ねる。ともえの伸ばした手は、演奏する仲間と、聴いている人へ開かれていた。

ひとりずつ違う音が、同じ終わりへ向かう。最後の掛け声のあとも、笑顔はすぐにはほどけない。

祈った時の静けさも、笑い声も、空へ広がった光も、その一曲の中に残っていた。

第5章 旧じょんがら節とおまわりさん逮捕劇

祭りを止める三人

P39おまわりさん?

つむぎとはやり、ともえが顔を寄せた。演奏の熱が、まだ頬に残っている。

〈お祭り 超楽しい!!最高!!〉

そんな気分の前へ、突然、警官姿の三人が現れた。

トンデモ~~~~~ン。

帽子にサングラス。ひとりは手帳を掲げ、ひとりは笛をくわえている。つむぎの笑顔が、驚いた顔に変わった。

つむぎ「え?おまわりさん???」

細身の男が、すました調子で言う。

ザンス「お楽しみのところ申し訳ないザンス」

大柄な男は両腕を曲げ、強そうな姿を見せた。

ズラ「この祭りは今すぐ中止ズラ!」

つむぎは目を見開く。さっきまで響いていた歌の余韻に、その言葉だけが硬くぶつかった。

P40おかしな逮捕状

ズラ「苦情の通報が入ったズラ」

ズラが言うと、マリは胸元を指した。

マリ「首謀者は逮捕ですことよ」

ザンスは一枚の紙を広げる。

ザンス「逮捕状もあるザンス」

そこには、〈たいほ状ざんす〉と書かれていた。

なおとは自分の持つ紙を確かめ、顔を上げる。

なおと「ちょっと待って。役所と警察署からも許可も得てるはずだよ」

声は穏やかでも、その場を譲るつもりはなかった。時間も場所も守ろうと、みんなで準備した祭りだ。

ともえは胸元に手を寄せ、三人を見つめた。

ともえ「この人たちほんとにおまわりさんだっぺか?」

警官の服だけでは、拭えないおかしさが残っていた。

P41手帳の値札

はやりが頬へ指を当てた。

はやり「どこかで聞き覚えのある声ジャン」

かけるは、ザンスの手帳へ手を伸ばす。

かける「ちょっと警察手帳みせてくれよ」

ザンスが身を引いた。ズラは横から指を突き出す。

ズラ「コラ、公務執行妨害ズラ!」

それでも、はやりの目は手帳を離れない。内側に貼られた値札を、指で示した。

はやり「Anazomの値札貼ってあるジャン」

手帳に残る札には〈Amazan〉の文字。りっぱに見せていた品が、急に心もとなく見えた。

マリが口元に手を添えて笑う。

マリ「ほほほ、一日署長に任命されたですことよ」

言い訳の声が明るいほど、かけるたちの視線は冷めていった。

P42本物の声

警官「ご苦労様です」

制服姿の警官が、穏やかに声をかけた。はやりはすぐに手を上げ、もう片方の手で三人を指す。

はやり「あ、おまわりさんこいつ等捕まえるジャン」

ザンスの顔に汗が浮いた。

ザンス「作戦失敗、退散ザンス」

次の瞬間、三人は走りだした。ザンスも、ズラも、マリも、そろって腕を振る。

スタコラサッサ―。

さっきまでの威張った姿が、遠ざかっていく。かけるはその背中を見送り、口元を曲げた。

かける「相変わらずアタマの悪い奴らだ」

強張っていた場の空気が、少し緩んだ。つむぎたちの前に、祭りの明かりが戻ってきた。

最後の一曲へ

P43仕切りなおし

なおとが胸に手を当てた。

なおと「ありがとう。危うく中止にされるとこだった」

ほっとした顔を見ると、こちらの肩からも力が抜ける。ひびきは口元へ手を添えて呼びかけた。

ひびき「仕切りなおしじゃ!!」

たいきち「楽しんでいくったい!」

たいきちがこぶしを上げる。止まりかけた気持ちを、もう一度前へ向ける声だった。

ともえがみんなへ手を開いた。

ともえ「最後は じょんがら節で締めくくるだ。」

最後の一曲。残った時間へ、演奏者の気持ちが集まっていく。騒動の後のひと呼吸が、次に鳴る音を待つ静けさへ変わった。

P44お国自慢の旧じょんがら節

〈お国自慢の じょんがら節よ〉

旧じょんがら節の響きが広がった。青い波と日本列島、花に囲まれた舞台が、音の行き先を映し出すように重なっている。

なおとの箏から、粒のそろった音がこぼれる。ともえの篠笛と、たいきちの尺八が息をつなぐ。ひびきの太鼓は、みんなの足元にしっかり拍を置いた。

つむぎ、はやり、かけるの三味線に、りゅうこうの鐘が加わる。違う高さ、違う長さの響きが、ひとつの流れになっていった。

場所が離れて見えても、音は離れない。八人の舞台をつなぐ光のように、一曲が遠くまで伸びていく。

音を渡して、祭りを結ぶ

P45若い衆唄えば

〈若い衆唄えば〉

かけるが口を開き、三味線を鳴らす。ひびきも笑顔を上げた。高く掲げたバチの先まで、勢いが通っている。

ひびきの一打が、広い空へ届くように響いた。かけるの弦が、その拍をつかんで進む。太鼓へ体を向けたままでも、隣の音は聞こえていた。

明るい雲の景色を背に、二人の袖が揺れる。大きく鳴らすだけでは、同じところへ進めない。相手の一打を受け、自分の一音を返す。そのやり取りが、歌の勢いを強くした。

P46あるじの囃子

〈あるじの囃子〉

かけるがバチを上げた。その隣で、りゅうこうは鐘を支えている。短い金属の響きが、次の音の居場所を示した。

はやりが三味線へ身を乗り出す。つむぎも同じ方へ顔を向け、バチを運んだ。はやりの思いきりのよさを、つむぎの音が受ける。つむぎの一音に、はやりも応える。

ともえとたいきちは向き合い、笛へ息を送っていた。細い篠笛の響きと、尺八の深い息。それぞれを消さずに、同じ流れへ重ねていく。

掛け合いは、言葉だけではない。聞いて、返す。その短いやり取りを、八人は演奏の中で続けていた。

P47娘踊れば

〈娘踊れば〉

かけるの声と三味線が前へ出た。後ろから、たいきちの尺八が支える。なおとは箏へ視線を落とし、弦の間を指でたどっていた。

高い音がきらりと立つ。そのあとを、低い響きが受け止める。かけるは相手の音を聞きながら、次のバチを下ろした。

足を踏み出したくなる拍が、そこにある。誰かが前へ出ても、支える音は置き去りにならない。三人の集中した顔に、同じ一曲の流れが通っていた。

P48稲穂も躍る

〈稲穂も躍る〉

金色に広がる列島の景色を、八人の音が結んでいた。花、波、山の向こうまで、響きの輪が続いていくようだった。

はやりとつむぎの三味線が弾む。かけるがそれを受け、りゅうこうの鐘が澄んだ合図を置く。なおとの箏、ともえの篠笛、たいきちの尺八。ひびきの太鼓が、最後までその足元を支えた。

思いきり鳴らした音を、最後の一拍へそろえる。ひとつずつ違う響きが重なり、やがて余韻になった。

すぐに手を動かしたくなる気持ちを残して、曲は結ばれる。祭りの終わりは、もう近かった。

第6章 エピローグと次回予告

祭りの後の約束

P49音は残っている

夏休み最後の祭りが、ゆっくり幕を閉じていく。

人の少なくなった広場に、やぐらが残っていた。提灯はまだ明るい。さっきまで踊りの輪があった場所に、夜の広さが戻っている。

たいきちは、少し眉を下げた。

たいきち「終わってしもうたら、ちょっと寂しかね」

ひびきは隣で笑った。

ひびき「じゃが、音はよう残っとるわ。」

もう太鼓は鳴っていない。それでも、あの拍を思い出すと、腕に力が戻る気がした。

ともえが胸へ手を当てる。

ともえ「今年も無事、つなげられただ」

なおと「みんなが手伝ってくれたからだよ」

なおとの声に、四人の顔がほころんだ。準備の時とは違う、やり終えた後の笑顔だった。

P50また会う約束

つむぎ「初参加だったけどとても楽しかったよ!」

つむぎが言うと、仲間たちも笑顔を向けた。初めての輪に入った時の戸惑いより、一緒に踊った手の感触が強く残っている。

たいきちたちは手を振って歩きだした。

たいきち「次も絶対、付き合ってもらうったい!」

たいきちが振り返る。ともえも、その隣から声をかけた。

ともえ「また会うべ」

はやりが腕を大きく上げる。

はやり「次もぜってえ盛り上げるジャン!」

かける「約束でい!」

かけるの声も、まっすぐに届いた。

りゅうこうは言葉を挟まず、静かに手を振っていた。つむぎはみんなの背中を見送る。別れは寂しい。それでも、次を約束できるのがうれしかった。

帰り道の決意

P51帰り道で聞いた計画

たいきちたちと別れたつむぎたちの帰り道――。

町の明かりの中に、見覚えのある三人がいた。警官姿ではない。マリ、ザンス、ズラが、並んで何かを話している。

はやりが目を丸くした。

はやり「あ、あいつら開放されたジャン。」

かけるは建物の陰から様子を見て、口元へ指を立てる。

かける「シっ!なんか様子が変だぞ。」

三人の言葉が、こちらまで届いた。

マリ「まったく古い伝統はナンセンスですことよ」

マリの言葉に、ザンスが続く。

ザンス「駅前の歌舞伎小屋解体ザンス」

ズラもこぶしを握った。

ズラ「日舞教室も着物屋も取り壊して一新ズラ!」

祭り帰りの足取りが止まった。歌や笑いを思い返していた耳に、取り壊すという言葉が残った。

P52守りたい場所

つむぎ「みんなの大切な場所なのに……。」

つむぎは胸元で手を握った。さっきまで祭りの中にいた人たちの顔が、その言葉に重なる。

はやりは両方のこぶしを握りしめた。

はやり「そんなの……許せないジャン!」

かけるも顔を上げる。

かける「てやんでい。黙って見てられるかい!」

三人は互いの顔を見た。祭りをみんなでつくったばかりだ。音が生まれる場所も、踊る場所も、簡単になくしてよいものには思えなかった。

つむぎのこぶしに、もう一度力が入る。はやりとかけるも、同じ方を向いた。

つむぎ・はやり・かける「絶対に阻止する!」

三人の声がそろった。祭りの余韻は、守りたいものへ向かう気持ちに変わっていた。

次回予告

P53次回予告――舞踊る!歌舞伎る!

扇を広げたつむぎが、華やかな着物の袖をひらく。

つむぎ「着物る✽」

続いて、きらびやかな衣装のはやりが笑顔を向けた。

はやり「舞踊る!ジャン♡」

かけるは歌舞伎の化粧で手を伸ばす。

かける「歌舞伎る!でい!」

りゅうこうも、いつもの短い言葉で続いた。

りゅうこう「シャミる。」

つむぎとはやりが並んで顔を寄せる。

つむぎ・はやり「次回も見どころ満載」

四人がそろった。着物、舞踊、歌舞伎、三味線。華やかな姿の真ん中から、かけるが呼びかける。

かける「次回もぜってえ みてくれよな」

次回、シャミる!第13話――「舞踊る!歌舞伎る!」

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